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2020.10.19

コロナウイルス感染流行下での循環器内科外来① -日々の変化について―

国立病院機構 関門医療センター循環器内科・女性総合診療 早野智子先生の投稿です。

足の健康

今年、2020年1月から徐々にコロナウイルス感染流行が日本全国に拡がり、4月に入ると、私の循環器内科外来に通院する患者さん方に、いくつかの徴候が目立つようになりました。

それらは

1)糖尿病症例では血糖コントロールの悪化(血糖値・HbA1c値の上昇)、

2)飲酒習慣のある症例では血清肝機能指標(AST, ALT, r-GTP, ALP)値の増加、

3)不安傾向のある症例での不眠・不安増悪、そして、

4)高齢者男女における著明な両下肢浮腫

です。

浮腫は下肢両側に均等かつ膝下から足背におよび、靴下や指での圧痕が顕著です。

再診の方も初診の方も「昔から足が腫れたら命に関わると聞いていたから心配になった。」と不安げに臨時受診されるケースが増えました。

私の外来に限ると春に7~8例、初秋に入り再び同じようなケースが増えつつあります。

下肢浮腫をきたす主な疾患:心不全、腎臓病・たんぱく尿、肝臓疾患・低アルブミン血症、甲状腺機能低下症、貧血、下肢深部静脈血栓症、リンパ浮腫等をまずは鑑別しますが、大方の症例はこれらの原因に当てはまりませんでした。

最も多く、7~8割を占めたのは「廃用性浮腫」です。

 

 「廃用性浮腫」とは、日常の活動性が低下したときに発生する身体の機能の衰え:廃用症候群の一徴候です。

廃用症候群では、運動不足から、筋肉や骨の萎縮をきたすだけでなく、心拍出量の低下や起立性低血圧(→易心不全化)、静脈血栓症、食欲低下や便秘(→易低アルブミン血症)、尿路感染症や尿路結石、抑うつや痴呆などの全身症状をきたし易くなりますが、今回あえて「廃用性浮腫」と特定したのは、心・下肢静脈エコーや血液・尿検査上、先述の鑑別疾患が除外されたケースです。

おそらく局所的な理由:ステイホーム期間に入り、急に下肢筋肉運動量が減少したことで、筋肉ポンプ作用が減退し、血液・リンパ液のうっ滞・浮腫を生じたものと推察します。

典型的なケースでは、週3回楽しんでいた卓球がコロナウイルス感染流行でできなくなり、ゴルフにも行かなくなった後に両足がむくみ、歩きづらくなった80歳男性がおられました。

両膝下から足背にかけて左右均等な浮腫であることがポイントです。

 

このような症例の治療法ですが、血管外科と症例を共有し、弾性靴下の着用と下肢運動(足踏み体操・両足首回転・足指じゃんけん等)の促進を指導しています。

再診時に状況を伺うと、弾性靴下を履いている間は浮腫がすっかり引いているけれども、靴下を履かずに過ごすと1日で浮腫は再燃するというケースもあります。

コロナウイルス感染流行・3密自粛期間が続くなか、一朝一夕には問題解決に至らないようです。

 

そこで、今回さらに「廃用性浮腫」について文献検索をしたところ、「廃用性浮腫」を「リンパ浮腫」に含めるか否かについて2説に分かれることが判りました。

1説は、加齢を原因とするリンパ浮腫を「廃用性浮腫」または「老人性浮腫」と呼ぶとする考え方(1)で、もう1説は、「廃用性浮腫」までリンパ浮腫と診断することで、原発性リンパ浮腫の患者数が急増してしまうことになるため、適切に診断できる医療機関が不可欠であるという、「廃用性浮腫」をリンパ浮腫に含めない考え方(2)です。

日本癌治療学会 がん診療ガイドラインの中にある「リンパ浮腫 診療ガイドライン」では、リンパ浮腫と鑑別が必要な疾患項目の一つとして「廃用性浮腫」を挙げています(3)。

また、高齢者の「廃用性浮腫」の治療に関する文献はなかなか見つかりませんでしたが、妊婦さんの下肢浮腫が圧迫療法と適度な運動で改善を期待できるとする文献(4)、下肢切断後の装具使用者を対象に、運動強度と運動時間、装具を時々脱ぎ履きする行為で、日々の下肢体液量が変わるという文献(5)がありました。

このように、廃用性浮腫をはじめ下肢浮腫には、禁忌項目がない限りは、圧迫療法と適度な運動がある程度有効のようです。

 次回は下肢圧迫療法の注意点について、そして、廃用性浮腫と鑑別が難しい「リンパ浮腫」について、機序、診断方法、性差に関する内容を、検索文献をもとにお伝えしたいと思います。

 

参考文献:

1, https://medicalnote.jp/contents/171120-002-KF 

広島大学病院 国際リンパ浮腫治療センター 教授 光嶋 勲 著

2017.11.22 最終更新

2. Y.Ogawa  Jpn J Phlebol 2013;24(4):447-456

 Conservative Treatment of Lymphedema Based on Evidence

(日本語版:小川 佳宏 著 静脈学 2013 Vol.24 No.4 447-456(総説)

エビデンスに基づいたリンパ浮腫の保存的治療)

3. がん診療ガイドライン 「リンパ浮腫」(日本癌治療学会HP内掲載)

   引用文献:Best practice for the management of lymphedema ほか

http://www.jsco-cpg.jp/guideline/31.html#cq01

4.K.Ochalek et al. Lymphat Res Biol. 2017 Jun;15’2)166-171

5. R.Youngblood et al. Prosthet Orthot Int. 2019 Feb;43(1)

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