2020.06.15
コロナウイルス感染症における性差③
天野理事長の投稿です。
◆◆女性ではコロナ感染症による死亡リスクが低い◆◆
つい最近、The New England Journal of Medicineに素晴らしい論文が掲載されました(参考論文1)。タイトルは「Cardiovascular Disease, Drug Therapy, and Mortality in Covid-19.」です。
この論文の目的は、心血管疾患で治療を受けている患者がコロナウイルス感染症にかかった場合、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB)を服用していると、何らかの弊害が認められるのではないかとの論文があるが(参考論文2)、実際はどうなのかを検証するものでした。
ハーバード大学医学部関連の非営利教育病院Brigham and Women’s Hospitalからの報告です。
対象は2019年12月20日から2020年3月15日までにアジア、ヨーロッパ、北米の169病院にコロナウイルス感染症で入院した患者で、2020年3月28日の時点で生存し退院した患者8395名と死亡した患者515名の比較をしています。
その結果を表にしました。
予測因子 | リスクを有する患者 | リスクのない患者 | リスクの差 |
死亡した人数(%) | 死亡した人数(%) | ||
年齢>65歳 | 147/1474(10%) | 368/7436(4.9%) | 93% |
女性 | 179/3571(5%) | 336/5339(6.3%) | 21% |
冠動脈疾患 | 103/1010(10.2%) | 412/7900(5.2%) | 170% |
うっ血性心不全 | 29/189(15.3%) | 486/8721(5.6%) | 148% |
不整脈 | 35/304(11.5%) | 480/8606(5.6%) | 95% |
慢性閉塞性肺疾患 | 32/225(14.2%) | 483/8685(5.6%) | 196% |
喫煙者 | 46/491(9.4%) | 469/8419(5.6%) | 79% |
ACE阻害薬使用 | 16/770(2.1%) | 499/8140(6.1%) | 67% |
ARB使用 | 38/556(6.8%) | 477/8354(5.7%) | 有意差なし |
スタチン使用 | 36/860(4.2%) | 479/8050(6.0%) | 65% |
リスクの差の赤字は増加、青字は減少を示します。男性、喫煙、慢性閉塞性肺疾患、冠動脈疾患などの心疾患を有する高齢者で致死率が高いことを明らかにしています。
また、米国CDC(米国疾病予防センター)から、コロナウイルス感染におけるハイリスクの患者についてのガイダンスが出ています。(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/people-at-higher-risk.html)
重症化する患者の背景として、下記の因子が挙げられています。
1.65歳以上の高齢者
2.ナーシングホームや長期療養施設の入所者
3.持病を有する者
心血管疾患(脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、心不全など)
糖尿病 慢性呼吸器疾患(喘息、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患など)・喫煙
高血圧、がん治療中、骨髄・臓器移植者、免疫不全症、HIV/AIDS、人工透析中、
肝臓疾患、長期コルチコステロイド・免疫抑制薬服用、BMI40以上の肥満者
男性で致死率が高い要因を考えるとき、生活習慣病における性差を考えることが大事です。
次回は、生活習慣病における性差について書いてみます。
参考論文
1.Mehra MR, et al. N Engl J Med. 2020 May 1;NEJMoa2007621.
2.Fang L, et al. Lancet Respir Med. 2020 Mar 11. pii: S2213-2600(20)30116-8