天野理事長ブログ&スケジュール

2018.12.26

一流女子中距離高校生ランナーと神経性食思不振症の女子高生

カレスサッポロ 北光記念クリニック 所長 佐久間 一郎先生の投稿です。

女子高生後姿

 

昨今、女性スリートの健康管理が向上し、栄養摂取不足・過重な練習メニューに起因する、骨粗鬆症や疲労骨折は減ってきているのではと思っていたが、昨年も新体操日本代表選手が大腿骨骨折を起こしたことが話題となり、先日も実業団の女子駅伝大会で、ランナーが下腿の疲労骨折を発症し、中継地点に四つん這いとなって到達し、タスキを次の選手に渡したことがニュースで放送された。

 

以前から、日本のスポーツ界ではスポーツ指導者・監督の無知により、女性アスリートが、食事制限による体重減少を強いられ、体脂肪は減少するものの、その結果無月経となり、骨粗鬆症を起こし、さらに練習過多が加わり、その結果多発性の疲労骨折を発症する状況が続いていた。

そのような選手は有名選手にも何人もおり、一番有名だったのは現在マラソンの解説者として活躍している、MA選手である。この状態は現在も、完全には改善されていないようである。

 

私はここ15年間、毎年8月の最終日曜日に札幌で開催される北海道マラソンの医療統括責任者をしており、そこには日本陸上連盟の医事委員長が毎年視察に来られるのだが、陸連の調査によると「女子高校生の全国駅伝の順位は、きれいにBMIと逆相関する」とのことである。

つまり、上位チームの女子高校生ランナーはBMIが低くスレンダーであり、下位チームのランナーはBMIが高く太り気味であることを意味する。この事実を知っている女子高校生チームの監督がBMIを減らす、すなわち体重が減ればタイムが良くなるということで「食事を減らせ」と選手に命令し、それに従い、さらに練習量を増やした生徒がたどる末路が「疲労骨折」なのである。

その結果、高校時代や実業団で、指導者によって潰されてしまう選手が陸上競技に限らず、他の競技を含め今でも沢山おり、日本スポーツ協会(旧日本体育協会)の最大の懸案事項となっているということである。

 

今から15年ほど前のことであるが、当時私の高校時代の同級生の歯科医の次女は、中学時代から卓越した中距離ランナーであり、北海道では駅伝で強いことで有名な女子高に入学していた。入学後に頭角を現し、2年生で駅伝のランナーとなっていたのだが、タイムが伸びないことから、心配した父親が、スポーツドクターである私に相談に来て、その子を診察し、診察・血液データ検査を行った。

彼女の陸上部の監督は、タイムを良くするために、選手に食事制限を指導していたのである。一方、同時期にやはり高校2年生であった自分の娘の診察と血液検査を行っている。その理由は、彼女が「神経性食思不振症」となったからで、160㎝の身長で体重は40kgそこそことなり、強風が吹くとそれに抗して歩けない程の病状であった。

 

二人の検査結果を見て驚いた。

二人とも身長・体重がほぼ同じ、続発性無月経、心拍数も40代、小球性貧血が認められた。驚いたのは、二人とも甲状腺機能低下症となっていたことである。エネルギー消費を節約するためにそのような状態となるらしい。すなわち、一流中距離ランナーの女子高生と神経性食思不振症の女子高生が、ほぼ同様な身体・内分泌状態となっていたのである。

 

シドニーオリンピックで高橋尚子が金メダルを取ったが、彼女は学生時代は有望な選手ではなく、小室監督と出会って急成長を遂げた。

彼女の練習計画は年間計画で、筋力トレーニング、高地トレーニング等が綿密に立てられており、さらに専門の管理栄養士が彼女の食事を管理しており、メニューはトレーニング期、レース前、レース後で、摂取カロリーや内容が異なっていた、すなわち、レース直前には体脂肪が落とされ、筋肉質で無月経とはなるが、肝臓にはグリコーゲンが蓄えられた状態となっている。

一方、レース終了後は脂肪を付けて太らせ、月経を再開させ、エストロゲン値を上昇させて骨粗鬆症を回避するのである。この時期の彼女を取材したマスコミは「練習をなまけて太っている」と書いていたが、1年後の次のレースである世界選手権時には、再び筋肉質でBMIの低い状態に復帰し、見事に優勝している。

 

最近、いくつかの競技で、日本選手がオリンピックや世界選手権等でメダルを取るようになっている。それらの競技団体は、優秀な選手を小学生や中学生の時に日本中から発掘し、中学・高校時代に無知な監督や顧問の自己満足(大会で良い成績を出し、自分の成果とする)の犠牲とならないように、東京板橋にある日本スポーツ協会のトレーニングセンター等に集め、「中央トレセン」で、科学的根拠に基づいた、正しい練習・食事指導・トレーニング等を実施・指導している。女子選手では、オリンピック出場時には、一番体調の良い月経周期期間に試合日が来るように、月経周期の移動まで行うのがルーチンとなっている。

 

私は現在、各都道府県で、日本スポーツ協会が公認するスポーツ指導者(スポーツドクター、スポーツデンティスト、スポーツ栄養士、スポーツ指導者(狭義)など10種)の全体を統括するスポーツ指導者協議会の北海道の会長を務めているが、いまだに女性選手では上記の問題が日本スポーツ協会の喫緊の問題となっており、最近では男性選手でも、例えばバレーボールで体重が減ると高く跳躍できるようになるので、食事制限をさせる監督がいるという。

女子選手では無月経となるので、すぐ栄養失調・鉄欠乏を知ることができるが、男子ではなかなかわからず、採血して初めて発見される。そのような選手には、公認スポーツ栄養士から母親に指導をさせている。

 

本稿では一流女子高校生ランナーと神経性食思不振症について言及したが、婦人科の先生によると、重症患者では月経が再来せず、妊娠が出来ない患者もいるという。ちなみに、本稿に載せた私の友人の次女は、その後結婚して子供を授かっている。私の一人娘も、結婚して31歳で2男・1女の母となり、東京女子医大皮膚科でアトピー外来を任され、肝っ玉母さんとなっている。

 

 

カレスサッポロ 北光記念クリニック 

http://www.caress-sapporo.jp/facility/hokko_clinic.html

 

所長 佐久間 一郎 

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