天野理事長ブログ&スケジュール

2017.11.27

意外と知らない「亜鉛欠乏症」

千葉県柏市の春日医院 春日葉子先生の投稿です。

 牡蠣

写真:牡蠣(編者注・亜鉛が多く含まれる食品の1つ)

 

飽食の現代、主な栄養上の問題は肥満や生活習慣病であると考える医師が多いと思います。

 

しかし、高齢者や慢性疾患の増加、食生活の変化などで亜鉛欠乏症が増加しているという事実はあまり知られていません。亜鉛は必須微量元素で、欠乏により起こる症状として有名なものは味覚障害ですが、それ以外にも様々な症状を呈し、様々な疾患に合併します。
稀な疾患であるという概念を捨て、まずは疑ってみることが大切です。

 

亜鉛欠乏症の症状は、前述の味覚障害のほか、皮膚炎、口内炎、脱毛、食欲不振、下痢、貧血、創傷治癒遅延(褥瘡など)、易感染性、性腺機能不全(特に男性)、骨粗鬆症などがあり、小児では身長・体重の増加不良(発育障害)があります。

さらに、慢性肝疾患(特に肝硬変)、糖尿病、慢性炎症性腸疾患(特にクローン病)、慢性腎臓病は亜鉛欠乏を合併しやすいことが指摘されています。
また、キレート作用のある薬剤を長期に服用していると味覚障害を引き起こすことも報告されています(L-ドーパ、炭酸リチウム、インドメタシン、イミプラミン、ビグアナイドなど)。

血清亜鉛値は日内変動が著明であり、午前は高く午後にかけて約20%低下します。食後は低下傾向にあるため早朝空腹時に測定することが望ましいですが、午後に行う追跡での測定法を否定するものではありません。

 

「亜鉛欠乏症の診断指針2016」において、血清亜鉛の基準値は80~130µg/dLが適切であり、60µg/dL未満で亜鉛欠乏症、60~80µg/dL未満で潜在性亜鉛欠乏と評価することが推奨されると書かれています。

しかし、集団の基準値は個の基準値ではなく、個々人に至適な血清亜鉛濃度があるので、血清亜鉛値の絶対値で亜鉛欠乏症を診断することは出来ないとの意見もあります。また、血清ALP低値は亜鉛欠乏症を疑う良い指標ですが、年齢により基準値が異なるため、該当年齢の基準値と比較することが重要です。

従来から亜鉛製剤としてポラプレジンク(プロマック)、酢酸亜鉛(ノベルジン)があり、それぞれ胃潰瘍、Wilson病が保険適応になっていますが、2017年3月に酢酸亜鉛製剤が「低亜鉛血症」で処方可能になりました。

 

多くの医師が考えているよりもはるかに多彩な症状をきたす亜鉛欠乏症が存在することを認識し、必要に応じて適切な亜鉛補充療法の施行が求められています。
詳しくは、

「亜鉛欠乏症の診断指針2016」www.jscn.gr.jp/pdf/aen20170613.pdf
「亜鉛欠乏症のホームページ」

を御覧ください。

 

千葉県柏市 春日医院   医師 春日葉子

 

 

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