2016.12.12
女性と「受動喫煙」
社会医療法人社団カレスサッポロ 北光記念クリニック所長 佐久間一郎先生の投稿です。
先日、大学教授の同級生が咳嗽(注)を訴えて来院した。
1泊2日だけ滞在した北京から前日に戻ったのだが、滞在中のスモッグがひどく、体調を崩したのだという。
案の定、胸部CTで肺炎はなかったが気管支炎像があり、白血球増多症も認め、抗生物質と鎮咳剤を投与した。このように大気汚染がひどい北京でさえ、制定した条例がある。それは、オリンピック・パラリンピック期間中の「罰則付き受動喫煙防止条例」である。
夏季も冬季も、オリンピック・パラリンピック開催地では、今まですべての都市で「罰則付き受動喫煙防止条例」が制定されている。
東京オリンピック・パラリンピック2020でも、小池都知事は必ず「罰則付き受動喫煙防止条例」を制定するとは思うが、現在厚生労働省が準備中の「罰則付き受動喫煙防止法」が、飲食業者や、煙草生産農家やJTを支援する国会議員の反対を制し、早期に制定されることを望む。
それは女性が「受動喫煙」に非常に脆弱だからである。
私は生活習慣病健診等で来院した女性患者のほぼ全員に頸動脈エコーを施行し、内膜・中膜厚(IMT)の肥厚やプラークの有無で動脈硬化症の存在を診断している。その結果、LDL-C値が高いことより、耐糖能異常、家族歴、高血圧のある方が、動脈硬化症の有病率は高い。
一方、LDL-Cも正常で他の危険因子がなくても、喫煙女性では50歳代からほぼ100%動脈硬化症が存在する。
しかるに、危険因子が全くなく喫煙をしていなくも、動脈硬化症の女性が相当数みつかる。その原因は、家庭や職場での「受動喫煙」であった。
現在、ピルやHRTを含め、女性ホルモン投与時には「一日15本以上の喫煙」が静脈血栓症を増加させるとして禁忌となるが、私としては「受動喫煙」も禁忌に追加すべきと思う。
「受動喫煙」の被害女性の方が、喫煙女性よりさらに危険と考えるからである。ただ、「受動喫煙」ではブリンクマン指数のような客観的指標がなく、その弊害を統計比較することが難しいのが難点となっている。
(注)咳嗽(がいそう、cough)
医療分野における症状の一種であり、肺や気道から空気を強制的に排出させるため、通常繰り返して起こる、気管・喉頭・呼吸筋の反射的な収縮運動である。一般的には咳(せき)という。
社会医療法人 社団カレスサッポロ
北光記念クリニック 所長 佐久間一郎