天野理事長ブログ&スケジュール

2016.08.31

「産みの苦しみ」を美化する社会

医療の世界ではよく知られていることだと思いますが、一般的には日本が「無痛分娩にかなりアンチな先進国」であることはあまり知られていないでしょう。

 

痛みを伴わない出産なんて出産ではないという固定観念か、無痛で出産できるなどということには関心がない社会なのか、無痛分娩=麻酔=危険という概念が強すぎる社会なのか、いずれにしても、無痛分娩が選ばれない国であることは確かです。

 

日本産科麻酔科学会が公表しているデータによると、2007年度に厚生労働省の助成金によって行われた研究調査の結果、なんと日本の硬膜外無痛分娩率は全分娩の2.6%でした。

これは国際的に見ると、先進国では極めて少ない比率といえます。

 

アメリカやフランスは無痛分娩が「普通の分娩」の国です。

同学会の公表数値によれば、アメリカで2008年に硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛を受けた女性は、経腟分娩(帝王切開以外)をした女性の約61%、フランスの2010年の調査では、経腟分娩の約80%もの女性が硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛による無痛分娩をしたそうです。

 

ある日本の経済雑誌を読んでいる時に、フランス人ジャーナリストが日本人の奥様のために無痛分娩クリニックを探したもののなかなかなく、さらに近場でやっと見つかっても出産予定日以降も満員御礼状態で、結局、出産のために奥様を遠く離れた地方の無痛分娩クリニックに入院させるしかなかった、と書かれていたのを思い出します。

 

無痛分娩が多数派ではないものの、イギリスは全分娩中の23%2006年)、ドイツは全分娩中18%(2002-3年)、ノルウェーでは全分娩中26%(2005年)と、いずれにしても日本での無痛分娩のマイナーさが際立っています。

 

無痛分娩は麻酔を使用しますので、危険であるから大学病院のほうが普及しているのでは、と単純に思ってしまいますが、日本では規模の小さい医療施設のほうが無痛分娩率が高いそうです。

診療所では3.3%、病院では1.8%と、むしろ病院の方が無痛分娩に対応していない、と言えます。

 

先ほど、フランス人ジャーナリストが無痛分娩クリニックを探すのに苦戦したという話を紹介しましたが、では一体、どれくらいの無痛分娩施設が日本にはあるのでしょうか。

 

日本産科麻酔学会会員の所属する施設の中で、硬膜外鎮痛または脊髄くも膜下麻酔硬膜外鎮痛併用法(CSE)による無痛分娩を行っている施設のリストが同学会のホームページに掲載されています。

 

201510月現在のデータ(ですので今現在稼動しているかは不明)だそうですが、私がリストから集計したところでは全国で149施設、エリアごとでは以下の状況です。

 

○北海道 5

○東北8 

(青森1 岩手1 秋田2 宮城1 山形1 福島2

○関東・甲信越 55 

(茨城4 栃木2 群馬2 埼玉11 千葉4 東京18 神奈川13 長野1

○北陸・東海 17

(富山1 石川2 静岡2 愛知9 滋賀3

○近畿 32

(京都3 大阪16 兵庫9 奈良2 和歌山2

○中国 11

(島根2 岡山3 広島2 山口4) 

○四国5

(香川1 徳島1 愛媛3

○九州・沖縄 16

(福岡4 佐賀1 長崎3 熊本3 大分2 鹿児島2 沖縄1

 

最大都市の東京だけ見ても18施設と人口が集中する特別区23区にさえも1施設ずつもない状況にまず驚かされました。

また39都道府県にしかなく、47都道府県のうち8県(新潟、山梨、福井、岐阜、鳥取、高知、宮崎、長崎)には無痛分娩施設はゼロというのも、これからの女性活躍推進の流れを考える上で、問題ではないかと感じます。

 

お産の大変さは個人差が大きく様々なスタイルが選べるほうが女性はより不安なくお産に臨めます。

ましてや無痛分娩は、産後の回復が早く、高齢出産のリスク軽減といったメリットが大きい(北里大学病院麻酔科 奥富俊之診療教授)分娩方法です。ちなみに北里大学病院(神奈川県)では、年間約1千件の分娩のうち、帝王切開を除く7割前後が無痛分娩だそうです。

 

女性活躍推進というならば、日本では看過されがちな海外から見るとちょっと異常なほどの「産みの苦しみ信仰」を何とかするべきではないか、そう思います。

 

㈱ニッセイ基礎研究所 生活研究部研究員

JADP上級心理カウンセラー     天野 馨南子

妊婦

 

 

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