女性外来10年史

山梨県立中央病院女性専門外来開設からの歩み

山梨県立中央病院女性専門外来開設からの歩み


女性専門外来担当

縄田昌子、塚本路子、瀬戸恵理

2001年に日本で初めての女性専門外来が設置されてから4年後の2005年3月に山梨県立中央病院女性専門外来は開設しました。知事選の公約に掲げられ2003年6月の定例県議会で設置が表明、新病院の全院開設時に合わせての開設となりました。

開設前の取り組みとして担当医、担当看護師が千葉県立東金病院、都立墨東病院の見学・研修、性差医療情報ネットワーク主催の勉強会に参加しいろいろ教えていただきました。
また新病院の全院開設に合わせての設置であったため診察室や中待合の建設段階から関わることができました。診察室や中待合の壁やドアの色、診察机、椅子、ベッドの選択など全てに関わりました。少しでも患者さんが話しやすい環境を作りたいという思いで準備しました。
最大の課題である院内外の専門医との連携には多くの時間を費やしました。
開設4ヶ月前に各診療科の主任医長が出席する会議に参加し性差医療の紹介と女性専門外来の目指す診療について発表しました。その後数ヶ月かけて各診療科の主任医長と個々に話し合いの場を持ち想定できるケースなど出し合いながら連携のお願いをしました。
医師だけでなく院内の保健師やケースワーカーとの連携も重要と考え、話し合いの場を設け協力をお願いしました。また院内だけでなく院外の相談機関として山梨県女性相談所(配偶者暴力相談支援センター)や女性の健康や人権問題に取り組み女性専門外来の開設に向けて運動してくださった看護大学の先生にも連携のお願いをしました。

開設後も常に意識し力を入れたのは院内外の専門医とのスムーズな連携です。女性専門外来がどんな診療をしているのか性差医療とは何かを院内外に理解していただき必要なときに協力していただける体制づくりを日々の診療の中で取り組んできました。
具体的には院内の全職員対象の学習会で外来診療のデータ発表など行い女性専門外来の診療や性差医療の理解を拡げるよう努力しました。紹介患者さんは従来の予約枠以外に時間を確保し迅速な対応を心がけ信頼関係を築くように努めました。その結果日々の診療でス
ムーズな連携ができるようになりました。院内だけでなく院外からの紹介患者さんも増えています。
外来患者さんの紹介先として一番多いのは精神科です。当院の精神科は外来患者さんの初診を受け入れていません。院内精神科は入院患者さんや救命救急センターを受診する患者さんの対応でマンパワー的に精一杯の状況におかれています。診療の受け入れはありま
せんが相談には応じていただけるのでそこは心強いのですが実際紹介するのは全て院外の精神科が現状です。そこで院外の精神科専門医との連携を考え2005年10月から「日常診療におけるストレスケア研究会」の世話人を引き受けました。
この研究会は気分障害や不安障害に関するプライマリーケア医と精神科医の連携を目的に作られました。この研究会に関わったことで院外の精神科の先生方と顔の見える連携ができるようになりました。

女性専門外来の診療は医師だけでは完成せず看護師の役割が大きいと日々感じています。
当院の予約は看護師が受けます。予約電話で症状を確認するため必要に応じてその場で専門診療科を紹介することもあります。また電話で話を聞いてもらうことで予約までの約1ヶ月間を安心して過ごせる効果もあるようです。初診時も再診時も診察前には看護師が必ず問診をとります。診察前の問診でおおまかな体調を確認できたり緊張を和らげたりする効果があります。患者さんの満足度も高いようです。時には看護師に話す内容と医師に話す内容に違いがありその方の精神状況などがうかがえることもあります。

開設当初から外来を根付かせるためには看護師の協力が不可欠と考えていました。
そこで看護部との結びつきを強くするよう取り組みました。当院看護部は500名前後の女性が所属しています。その女性たちの体調不良の受け皿として外来を利用して下さいと看護部長に話をもっていきました。夜勤など激務の看護師は体調を崩しやすいこともありスタッフ受診は増えています。スタッフは師長を経由して受診することが多いため多くの師長とつながりができ診療しやすい環境が整いました。

最近では看護師が各専門診療科の狭間で苦しむ患者さんを女性専門外来で相談したら、と案内してくれることが多くなりました。看護師が性差医療を理解することは大変重要なことと考えています。2008年からは看護大学で性差医療と女性専門外来について毎年講義をしています。これから看護師になる学生に性差医療と女性専門外来の分野を勉強してもらうことの意義は大きいと考えています。また看護学生自体若い女性であり不摂生な生活をしていることが多いため学生自身が健康管理に目を向けるきっかけにもなっているようです。

女性専門外来では動脈硬化性疾患の予防、骨粗鬆症の予防、乳癌の予防を三本柱として予防医学にも取り組んできました。患者教育だけでなく病院を受診する前の健康な女性を対象に啓蒙活動を行ってきました。具体的には市町村での出前講座、教職員女性部、県職員女性部、保健指導科学習会、乳癌術後の患者会などでの講演を通じて予防医学に取り組んでいます。

外来は性差医療の実践の場としてデータを集める役割も担っています。
今年度は多くの女性が苦しんでいる「月経に関連した片頭痛」について臨床研究を行いまし。月経前におけるエストロゲンの血中濃度低下が片頭痛発作と深く関係していると言われています。今回月経に関連した片頭痛患者40名とコントロール40名でエストロゲン受容体の遺伝子多型について解析しました。また自覚症状として「冷えによる痛み」と「車酔い」が片頭痛と相関していることがわかりました。

当院の女性専門外来の特徴は2つあります。1つ目は診察時間が多いことです。専任の常勤医と非常勤医師2名の計3名で毎日午前・午後2診体制で診療をしています。患者さんの数も毎年順調に増えています。当院女性専門外来は基本主治医制で振り分け外来ではありません。そのため診療が終了する患者数以上に初診・再診の患者数が増えてしまいました。
診察時間に30分確保するため外来診療枠に限りがあり開設4年目頃から初診の人数が頭打ちになりました。そこで2010年4月、独立行政法人化と同じタイミングで外来診療枠を見直しました。一律30分の診療時間から初診1時間、再診15分に変更しました。二倍近く診療枠を増やしたにも関わらず予約は常に埋まっている状況です。女性専門外来という新しい診療スタイルが院内外に広まったと確信しています。
2つ目はチーム医療の実践です。看護師との協力体制については先に述べたとおりですが担当医師間の協力体制も万全です。女性専門外来の診療には定まったガイドラインがあるわでもなく患者さんの訴えもその対応も多岐にわたっています。当院を受診した場合誰が主治医になっても同じような治療方針になるよう毎月1回カンファレンスをしています。カンファレンス開催時以外も毎日のようにその日その日の患者さんの対応など相談し合っています。大変な患者さんがいてもストレスをためることなく日々の診療ができるのはスタッフの協力あってのことと思い恵まれた環境に感謝している毎日です。

今後の課題として日々やり残しているのはデータ解析です。患者数の増加からデータは蓄積していますが日々の診療に追われ解析ができない状況が続いています。今年度は塚本先生を中心に片頭痛患者の遺伝子多型について解析しましたが今後も継続して蓄積されたデータの解析をすることが女性専門外来の大きな役割と考えています。

以下年度ごと簡単に診療実績をまとめました。

 

 

 

平成17年度
診療実績初診622名、再診2198名、計2820名

2005年1月院内学術集会(対象:病院全職員)、「性差医療について」

2月山梨県教育庁女性部学習会(対象:県職員女性部、甲府)
「性差医療と女性専門外来」

3月外来開設

9月院内学術集会(対象:病院全職員)、「女性専門外来の現状報告」

10月日常診療よるストレスケア研究会立ち上げ
第1回2006年1月26日
「新潟県松之山町における高齢者自殺予防活動
~精神科医とかかりつけ医および地域精神保健スタッフとの連携~」
心療内科・神経科高橋クリニック院長高橋邦明先生
第2回2006年11月2日
「性差と医療と女性外来」
千葉県立東金病院副院長、千葉衛生研究所所長天野恵子先生
第3回2007年11月13日
「児童・思春期のメンタルヘルス~子どもの心の発達と思春期の課題~」
元山梨県立中央児童相談所子どもメンタルクリニック吉田有紀先生
第4回2009年1月29日
「プライマリードクターと精神科との連携~認知症を中心に~」
特定医療法人南山会峡西病院院長浅川理先生
第5回2010年6月4日
「プライマリーケアで役立つ睡眠障害の知識」
国立精神・神経医療研究センター精神科医長亀井雄一先生

11月女性のこころとからだセミナー(対象:一般市民、甲府市)
「女性専門外来における性差医療の実際」

 

平成18年度
診療実績初診467名、再診3153名、計3620名

2006年3月山梨県立看護大学短期大学部と共同研究
性差を考慮した医療(Gender-SpecificMedicineGSM)
に向けた女性専門外来の課題に対する医療社会学的実証研究
第一章性差医療が求められる背景
世界の状況、日本の状況、山梨の女性専門外来につながる女性健康運動
男女共同参画社会基本法生涯を通した女性の健康
第二章日本における女性専門外来の実態
女性専門外来開設の推進、女性専門外来開設状況
女性専門外来と地域連携
第三章山梨県の女性たちが求める女性専門外来
山梨県下700名アンケート調査
-女性専門外来に期待すること、現在の健康状況-
第四章山梨県立中央病院の女性専門外来~運営当事者からの報告~
女性専門外来における性差医療の実際、更年期以降の女性の健康
女性専門外来の診療の実際、受診者の動向

3月甲府市女性市民会議OG会、男女共同参画だよりグループ学習会
(対象:甲府市女性市民会議OG、甲府市)
「女性専門外来の実際」

8月保健指導科研修会(対象:一般市民、甲府市)
「更年期症状と不定愁訴」

9月乳癌術後患者会・さくらの会学習会(対象:乳癌術後患者、甲府市)
「乳癌治療と更年期障害」

12月北杜市女性団体連絡協議会講演会(対象:北杜市民、北杜市)
「女性専門外来の現場から」


患者満足度アンケート実施:2006年4月から2007年2月まで初診患者313名
受診してよかったこと、受診のきっかけ、満足度など調査


平成19年度
診療実績初診471名、再診3914名、計4385名

2007年2月甲府市女性市民会議OG会、男女共同参画グループ学習会
(対象:甲府市女性市民会議OG会、甲府市)
「女性専門外来の実際」

3月韮崎市女性団体連絡協議会研修会(対象:韮崎市民、韮崎市)
「女性専門外来の現場から」

6月日医生涯教育協力講座(対象:医師、甲府市)
「プライマリケアにおけるうつ病の診断・治療-総合病院の立場から-」

6月ぴゅあ富士出前講座(対象:一般市民、大月市)
「女性専門外来診察室から」

11月第4回性差医療情報ネットワーク研究会(対象:NAHW会員、東京)
「女性専門外来現状報告・山梨県立中央病院」


平成20年度
診療実績初診386名、再診4144名、計4529名

2008年から山梨県立大学看護学部講義
「女性専門外来における性差医療の実際」

2008年8月女性のための健康セミナー、山梨県教育庁教職員女性部学習会
(対象:山梨県教職員、甲府市)
「ライフステージからみた女性の心と身体」

 

 


平成21年度
診療実績初診315名、再診4305名、計4620名

2009年5月乳癌術後患者会・さくらの会学習会(対象:乳癌術後患者、甲府市)
「乳癌治療に伴う心身の不調との付き合い方」


平成22年度(独立行政法人化)
診療実績初診368名、再診5055名、計5423名、再診15分枠

2010年4月より外来診療時間変更
変更前:初診・再診とも30分
変更後:初診1時間、再診15分

2010年1月院内学術集会(対象:病院全職員)「疾患分類からみた女性専門外来」

アンケート調査実施:
2011年1月から3月まで再診患者462名
・受診のきっかけとなった症状はどうですか?
・通院してよかったことは何ですか?など

平成23年度
診療実績(4月~11月)初診250名、再診3631名、計3881名(前年度同時期3559名)

臨床研究:月経に関連した片頭痛患者のエストロゲン遺伝子多型解析

開設から平成23年3月までの初診・再診患者数

 

開設から平成23年3月までの年齢別受信者数

 

開設から平成23年3月までの疾患別分類

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