女性外来10年史

国立関門医療センター女性総合診療外来10年目を迎えて

国立関門医療センター女性総合診療外来10年目を迎えて

国立関門医療センター 女性総合診療センター長 循環器科医長

早野 智子


当院の女性外来、「女性総合診療」は、女性の心と身体をあわせて診察する総合外来です。
国立下関病院で、佐栁院長の立案のもと、2002 年 9 月 30 日に開設しました。2004 年の独立行政法人化で、病院の名称は、「国立下関病院」から現在の「独立行政法人 国立病院機構 関門医療センター(通称 関門医療センター)」に改称され、2008 年 4 月に、旧陸軍病院として後田地区にあった旧病院舎から、現在の長府外浦地区へ新築移転しました。
女性総合診療は、開設から 9 年余りを迎え、受診患者総数は 1739 名です。専任看護師と女性医師が、院内外の各専門科医師、コメディカルスタッフ、保健行政機関のサポートを得て診療を続けています。
2002 年の開設当初は、旧病院舎をいかに居心地良く手作り改装するか、スタッフの接遇を見直し改善するかに院長をはじめ、病院職員全体が心を砕き、その表れとなる病院の旗印が「女性総合診療」でした。2008 年の新病院舎への移転以後は、インフラの充実で、オーシャンビューを望む女性総合診療専用の診察室とセンターもできました。その一方、医局制度の崩壊など、社会事情の影響でしょうか、担当医師の数は、2004 年当時の 8 名を最多として、現在は、開設当初と同じ 3 名です。

<開設の経緯>
当センターの佐栁進院長は、赴任から 2 か月後の 2002 年 6 月に女性専用外来の開設を立案しました。かつて千葉県衛生部長を務めたつながりから千葉県立東金病院の試みに注目し、スタッフの接遇の向上と意識の刷新を図り、急な坂の斜面に建つ当院の構造上の入りにくさと建物の老朽化を医療サービスの質と内容でカバーする趣旨がありました。当時常勤の女性医師は 7 名で、スタッフが千葉県東金病院の女性専用外来を見学して、「女性総合診療」は構想されました。
千葉県東金病院の2つの特色:
①女性のあらゆる悩みに対して女性スタッフが対応する、
②完全予約制で1人 1 回 30 分間かけて診察する、これらを当院でもそのまま取り入れました。加えて当院では、専任の看護師を充てるとともに院内保育所を活用してお子様一時預かり(有料)も可能にしました。
開設当初の診療体制は、週 3 回(月・水・金)で、それぞれ循環器内科 早野智子、代謝内科 濱崎暁子医師、皮膚科 安井由紀医師の 3 名が担当しました。その後、予約依頼数が予定の診察枠を超えることから、精神科 梅田知子医師 産婦人科 江本智子医師 (現在
智子クリニック開業)、耳鼻咽喉科 鎌田朊美医師(現在 開業)、乳腺外科 佐藤路子医師(現在 山口大学医学部附属病院勤務)、消化器内科 鶴田園子医師(結婚後県外転勤)が2003 年から 2004 年にかけて担当医に加わり、週 5 日間(月~金)に7回の診察枠を医師8名当しました。その後、担当医師の結婚・出産や転勤等に伴い、その数は変動し、2008年 6 月から 2011 年 3 月の期間に整形外科 大井律子医師が担当医師に加わられた後、現在は、循環器内科 早野智子(月)、代謝内科 濱崎暁子医師(水)、精神科 梅田知子医師(水)の担当医 3 名で運営しています。院内の担当医師数が絞られるにつれ、院内外に医療上の連携をお願いするケースも増えているのが、この数年間の当診療の流れです。

<診療の流れ>
当診療では、診察時間が 1 回 30 分の完全予約制です。受診のご希望をお電話でお受けする際に、専任の看護師が問診をおとりします。問診の内容に沿い、医師と相談の上で受診予約の日時と担当医の決定をいたします。あらかじめ予約を受けた担当医は、各科専門の医師・スタッフと連絡相談し、連携して診療方針を練るシステムです。

<院内外のネットワーク形成>
受診なさる女性の健康増進のために、日頃より次の3つの面で、院内外の枠を越えた広いネットワークが必要と実感しております。
① 生活習慣病の予防と治療
② 疾患の引き金となる社会背景への対応
③ 身近な医療サービスへの引継ぎと連携
現在、「①生活習慣病の予防と治療」では、院内の栄養指導士が定期的に個別に面談し、治療メニューを作成して成果を得ています。日常生活内でのきめ細やかな対応が疾病予防と治療の秘訣と考えます。
「②疾患の引き金となる社会背景への対応」で、女性の心身の悩みの背景には、介護や育児等の社会問題が関わるケースが目立ちます。育児不安による自律神経失調症状や介護疲れによる不眠・動悸・血圧上昇、転職退職後や家族との死別後のうつと、内容は様々で
す。問診内容から推察すると、開設当初から受診者の約 3 分の1で、心身の症状の引き金に何らかの社会・生活環境因子が働いています。現代の女性に多い社会問題を解決するうえで、同性のコメディカルスタッフが発揮する役割は非常に大きいものです。当院では、
カウンセリング担当の臨床心理士、家族介護や育児の負担軽減をサポートするソシャルワーカーが重要な役割を果たしています。
「③身近な医療サービスへの引継ぎと連携」では、地域のかかりつけ医の先生方と保健医療施設にフォローアップをお願いすることが、長期的な治療効果上大切となります。そのため、当センターの地域医療連携室と広報誌等をとおして各方面の先生方と交流をいた
だき、“双方の顔が見える医療”を志しています。 この数年は、地域の医院で診察・治療を続けてこられた患者さんの症状や病態について、かかりつけ医師から新たに精査・診断を求められる紹介受診のケースも増えてきています。その際に、これまでの精査の実施時期と専門施設での実施か否かを確認したうえで。医または他の総合病院でなされた精査結果をある程度前提として、当院で次に行う精査内容を検討しています。ただ、本当に残念ながら、前提となる検査結果に思わぬ不備が後
にみつかり、重大な事態に至った症例が 1 名ありました。
これから院内外に診療連携の輪を広げるには、検査データの共有方法、情報交換の往復を迅速・円滑にする方法の新たな打ち出しが欠かせません。各医師が、それぞれの専門科業務・病院業務に分刻みの日程をこなすなか、この問題点をどう打開してゆくかが、開設から 9 年を迎えた関門医療センター 女性総合診療のこれからを握る大切な鍵となります。
開設から 10 年めを迎え、次の一歩が問われる現在です。

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