女性外来10年史

女性外来10周年誌に寄せて

女性外来10周年誌に寄せて

<東大病院老年病科女性総合外来>


宮尾益理子
東大病院女性総合外来が東京大学老年病科外来内に誕生したのは 2003 年7月ですので、8年以上が経過しました。当医局は、先代教授の折茂肇先生、現教授の大内尉義先生のもと、20 年以上前から女性ホルモンを中心に、「性差医学」にとりくんでおり、現在はテストステロンも含めて、医局全体で基礎、臨床両面から、性差医学、医療に取り組んでいます。また、「高齢者」を診る科として、全人的医療を行っております。
女性外来が世間に誕生し話題になりはじめた時期に医局として「女性外来」を開設することとなりました。当時は関東中央病院に赴任後3年目でしたが、大学で骨粗鬆症外来を担当し、女性ホルモンを駆使し多くの更年期女性と高齢者を診療してきた背景に依り開設に携わることになりました。週半日の研究日を活用し、天野先生始め千葉の先生方、その他先人の話を伺い、数施設を見学した後、産婦人科、精神科などの院内他科にもご連絡し、私と大池裕美子医師で週2回で開設しました。
東大病院に通院中の方、地域の方、非常に遠くからマスコミ掲載やインターネットで検索して来られる方が当初から現在まで受診しておられます。人(高齢者)を診る外来でのこれまでの経験から、原則として継続診療の形をとっています。
2006 年からは大学院生を対象に、2008 年からは医学部5年生を対象に、「性差医学医療クルズス」を行っています。性差医療医学の概念、女性外来誕生の背景や、女性外来の実際の症例を紹介し、女性特有のライフサイクルや更年期障害などを伝えています。
対象が医学生なので様々な分野での性差医療の必要性を伝えるために、性差医療に必要な観点を高齢者医療を例にとり伝えています。また、Narrative Based Medicine と漢方医学についても、診療に有用な知識として伝えています。Q&A を豊富に取り入れたク
ルズスでは、前後に行うアンケートも含めて非常に印象深いようで、すべての領域に必要な性差医療を将来それぞれの分野で発展させてくれると信じており、性差医療が当たり前になる日も遠くないと信じています。
性差医療センターへの発展や、性差医療に関する研修プログラムの実施などの構想も立て、婦人科の先生方、研修センターの先生とも話し合いましたが、東京、東大病院という特殊性に阻まれたためか、力不足か、今のところ現実化はしておりません。実情は、私自身、亀山医師、花岡医師の産休の取得、大学院の卒業および、医局人事に伴う移動などにより、性差に明るい医局の全面的なバックアップがあっても、現在の診療、教育体制の維持が綱渡り状態です。
女性をトータルで診るためには様々な知識が必要です。私自身、当初は全くの手探り状態で、毎週の様に千葉まで、漢方や婦人科領域、精神科・心療内科領域の薬物療法、女性に特有な疾患のセミナーに数えきれない程参加しました。その後、荒木葉子先生、柴田美奈子先生と NAHW の東京支部を設立し、現在まで 20 回以上のセミナーを開催してきております。ここで出会った多くの女性医師は、私の財産となりました。女性医師としての生き方、後輩たちに伝えるべきことなど、多くの知識とエネルギーをもらいました。
私は女性外来を担当したことで、総合診療医として格段に向上したと思っています。
「傾聴と共感」という医療面接態度、カウンセリング、漢方治療、精神科・心療内科領域の薬物療法はじめ、女性外来を担当するために知識として学び、さらに1診療を通して受診者の方から多くを学びました。
現在の東大病院の女性外来は決して拡大路線ではないですが、2つの役割を果たしていると思っています。一つ目は、先に述べた医学生などへの教育的役割です。東大の学生以外でも、他大学の医学生や医師も見学や研修に来ますので、エッセンスとして女性外来や性差医療を伝えています。2つめは担当する女性医師のスキルアップです。女性の全体を診る「とことんつきあう」外来での経験は、多くのことを学ぶ必要性を実感させ、患者さんからも教えられ、臨床医として「進化」することができます。
現在も総合診療を深めるために、筑波大学からのローテーションとして当医局で研修中のベテラン総合診療医の廣瀬先生が女性外来を担当してくれています。4月からは全人的医療、性差医療に惹かれ入局してくれた七尾先生が女性外来に加わります。
今回の記念誌のため、女性外来を担当した女性医師に、感じたことを少しずつですが綴ってもらいました。各自の視点は、女性外来での学びや成長を物語っています。女性外来誕生から 10 年ということですが、女性外来をキーワードとして女性医師のネットワークが女性医師と女性、さらに、男性医師、男性の心と体の健康と性差医療の発展に役立つことを願っております。


女性外来を担当して/各担当医師からのメッセージ
大池 裕美子
女性総合外来を宮尾益理子先生とともに開設し、院内異動となるまでの数年間外来を担当しました。患者さんは若い方から高齢者の方まで幅広く、家庭及び社会での立場そして症状も様々でした。そのような外来で、”先生にいろいろと話を聞いてもらって本当に良かった。”とおっしゃりながら診察室を出られる方が多かった印象があります。
その度に”傾聴”の大切さ、場合によっては薬物療法よりも効果があることを実感していました。
女性総合外来を通じて、私自身いろいろと勉強になり、医師として良い経験にもなりました。このような外来は現代の社会において必要であり、また機会がありましたら様々な悩みを抱える女性のお役に立ちたいと思っています。

山祐美
東大病院老年病科女性総合外来を担当して 5 年になります。他の病院の先生方とのネットワークがとても大切と感じましたのが、脱毛と骨粗鬆症で深刻な顔をされた 60 代女性患者さんを経験したことです。
脱毛に対して、皮膚科でシャンプーを勧めていただき、女性外来では、漢方の処方をしておりました。ある研究会で順天堂東京江東高齢者医療センター皮膚科の植木理恵先生の御講演を聞き、髪を専門にする診療・治療を知り、その患者さんをご診察いただくことになりました。ご処方いただいた薬がとても効果があり、また、髪が抜け始めた頃大きなストレスがあったことを聞き出して下さり、患者さん自身がそのストレスを納得し、解決させ、大変満足されていらっしゃいました。生えてきたうぶ毛を自慢され、とても生き生きとしてきました。女性外来を窓口として、より専門の先生をご紹介でき、大変良かった症例で、医師同士のネットワークが女性外来にはとても大事だと感じました。
そんな矢先、大変ショックなことに、彼女に乳ガンがみつかり、抗癌剤の副作用で髪が抜け落ちてしまいました。どんなに落ち込まれていることだろう、と心配しておりましたが、また生えてくるのを楽しみにされ、とても明るく前向きな姿に私の方が元気をいただきました。
女性外来を通して、色々な人生の女性と接し、女性の繊細さ、母性、強さを感じ、学ぶことが多いです。NAHW の研究会や性差医学・医療学会では、様々な科の先生方と交流がもて、私の財産となっております。

深井志保
女性外来にくる患者さんは体の不調を訴えていても、それだけの方はほぼゼロで、聞き出すと大きな心の悩みを抱えている方がほとんどです。他院では話を聞いてもらえず、不安なまま、仕事のストレス、家庭の悩みなどで疲れ切って、心身のバランスを崩した
方々が大勢おみえでした。
心と体は決してばらばらに捉えるのではなく、心のあり様が体に大きく影響を与える、という漢方の「心身一如」の考え方から、漢方薬も使う機会が多かったです。また、女性外来では向精神薬、一般的な内科の処方、カウンセリングなど多くのツールを使える
ことが求められることを実感しました。

山田容子
「症状はあるのに、病気ではない」と言われて悩んでいる女性がとても多いことに驚きました。薬を処方するだけではなく、話をよく聞いて共感していくことで症状が消えていくことが多く、やりがいのある外来です。現代の環境は女性にとって過酷で、バランスを容易にくずしてしまうので、サポートすることのできる女性外来は必要不可欠だとっています。」

花岡陽子
「女性外来を担当した感想」
私たち女性は加齢とともに変化する体調にとても敏感になるのだと思います。本人にしかわからない「何か以前と違う体調」を他人に理解してもらうよう説明するのは難しいことがしばしばあります。女性外来ではそうしたことを踏まえて診療に望んだのですが、それでもなかなか理解が難しく、適切な医療を施しているのかと、苦慮することが多々ありました。そうしたケースに対応するには豊富な医療経験に加えて女性としての人生経験が必要なのだと、実感する経験となりました。

廣瀬由美
2011 年 10 月より担当しております。これまで更年期障害に対して苦手意識もあり避けてまいりましたが、ちょうど良いチャンス! 勉強しております。更年期障害が多いのだろうと勝手に予想しておりましたが、それに反してそれ以外の訴え・愁訴の方がほとんどでした。患者さんの話をじっくりと聞くことができ、楽しくやっております。

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