女性外来10年史

「大分大学女性専用外来の歩み」

「大分大学女性専用外来の歩み」

大分大学医学部 臨床検査診断学 中川幹子

1. 開設の経緯
2004 年に当時の病院長が提唱した「豊の国医療ルネッサンスプロジェクト」の一環として、患者中心の温かい最良の医療の実践を目的に、「医療の質向上プロジェクト」の募集が行われました。このプロジェクトの特徴は、①患者さんの視点から見て質が高く温かい最良の医療であること、②複数の診療科や職種の職員がチーム医療として実施すること、③将来の発展性や採算性が期待できることです。当時、全国各地で相次いで開設されていた「女性外来」に興味を抱いていた私は、この女性外来の理念こそプロジェクトの理念に一致すると思い、迷わず応募しました。幸いにも採択され、早速ワーキンググループを立ち上げ議論を重ねた結果、翌2005年4月に大分大学附属病院に「女性専用外来」が開設されました。開設当初は、循環器内科、総合診療部、産婦人科、精神科、泌尿器科の女性医師 5 人が、各自週半日から 2 日を女性外来担当日とし、それぞれの科の外来診察室で診療を行う体制をとりました。診療は予約制で、電話予約の際に外来師長が受診理由により各診療科に振り分けています。

2. 女性外来の現状と問題点
開設後 6 年が経過しましたが、その間に産婦人科、精神科および泌尿器科は担当医の移動等で休診となり、乳腺外科が新たに加わった結果、現在は4人の女性医師が担当しています。この6年間は決して順風満帆ではなく、開設当初からさまざまな問題が浮上しました。
まず、女性外来を受診される患者さんの特徴として、症状が多種多様でいわゆる不定愁訴が多いこと、また既に複数の病院を受診しさまざまな検査を受けた結果、器質的な異常はないと診断されたが、症状が取れず悩んでいる方が多いということです。自分の専門領域であれば診断や治療は比較的容易ですが、専門外の症状を訴える患者さんも多く、いわゆる振り分け外来的な役割になってしまうこともあります。また専門医に紹介して解決できれば良いのですが、西洋医学の診断・治療法だけでは対処できない場合にも多々遭遇します。担当医の中には、このような診療に疑問や不満を感じて担当を降りた医師もいました。特に若い女性医師には負担が大きかったのではと思います。私自身も、自分の医師としての非力さに気付き、果たしてこの状態で女性外来を続けていけるのかと悩んだ時期もありました。そんな時に私は東洋医学という古くて新しい医学に出会いました。この漢方との出会いが、私の女性外来に対する考え方を大きく変えました。

3. 女性外来と漢方
ある人に誘われて地元であった漢方の勉強会に初めて出席した時、東洋医学は心身一如の医学で、かつ性差を考慮した医療であり、女性外来に絶対必要であると感じました。その後、天野恵子先生が中心となって全国の女性外来担当医のための漢方セミナーが開催されていることを知り、私も参加させていただきました。そこで日本大学医学部東洋医学講座の木下優子先生の講義を何度も興味深く拝聴し、すっかり漢方の魅力に取りつかれてしまいました。またこのセミナーに参加することで、天野先生から性差医療の重要性を学び、さらに全国の女性外来担当医と有意義な情報交換ができました。私も大分の地で何とか女性外来を根付かせ、少しでも苦しんでいる女性の役に立ちたいと決意を新たにしました。その後、大分で織部和宏先生の弟子となり勉強を続け、漢方専門医の資格を取りました。現在、私の女性外来の患者さんの約半数は漢方薬のみの処方、約1/3は漢方薬と西洋薬の併用で治療を行っています。
女性外来では出来るだけ時間をかけて診察をするように、また話しやすい雰囲気を作り出すように心掛けています。西洋医学的な診察と並行して東洋医学的診察を行い、患者さんの症状を体全体の不調の身体的表現として捉えて治療すると、一見関連のなさそうな諸症状が同時に改善していくことを経験します。経過の長い患者さんの場合は初診の30分では足りず、ましてや再診の15分は短すぎると感じることもあります。「先生が女性で話しやすくて良かった」、「先生に逢うとホッとし、元気になります」などの言葉をいただくと、女性外来を始めて本当に良かったと思います。しかし一方で、折角受診していただいたのに治せなかった患者さんに対しては、自分の力不足を痛感し、大変申し訳なく思います。

4. 女性外来と性差医療
女性外来は性差医療を実践する場であります。本大学の総合診療部の女性外来では、特に女性に罹患率が高い、「骨粗鬆症外来」と「物忘れ外来」を行っており、予約が殺到しています。循環器内科が専門の私の外来は「動悸・胸痛外来」と名付けていますので、更年期や性周期に関連した自律神経の影響で起こる不整脈や、中年女性に特徴的な微小血管性狭心症の患者さんが受診されることがあります。性差医療の知識があれば、適切な診断や治療を行うことが可能です。私は従来より不整脈における性差を研究していますが、今後も性差医学・医療の知識の習得に努め、女性外来の診療に役立てていきたいと考えています。

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