女性外来10年史

宮城県女医会の女性健康・医療相談事業

宮城県女医会の女性健康・医療相談事業


宮城県女医会
山本蒔子

全国に女性外来が開設されている中で、宮城県においては、形態は少し違って相談という形を取っているが、女性外来とほとんど同じような内容の女性の健康・医療相談を行っている。しかも公費の助成を受けて実施していることも特徴である。平成14年から開始した宮城県女医会会員による、女性の健康相談事業について状況を報告する。

1.性差医療を知るきっかけ
私が性差医療に気づかされたのは、平成10年に日本医師会会長の坪井栄孝先生が、女性で米国医師会会長として活躍しているナンシー・ディッキー先生を招聘して開催した講演会であった。「アメリカ医師会活動における女性医師会員の役割」の講演の中で、次の様なナンシー先生が経験されたエピソードをお話しされた。
ある男性教授が胸が苦しいという患者について「患者が男性だったら、診断は胃潰瘍か心臓病だよ。女性だったらストレスだ。安定剤でも与えることだね。」
これを初めて聞いた時はとても腹が立った。しかし、臨床を初めて、いつの間にかそのことを受け入れてしまっている自分に気づいた時の方が、ずっと不快感が増した。そうしないように努力していたのだが、同じ見方をしていたのである。男性と女性に対するケアが、男と女であるだけで異なるのは性差別であると指摘された。
私も東北大学病院で臨床をしていて、米国のナンシー先生と全く同じような男性医師の言葉を聞いていて、しかもそれをそうだと思っていたのである。それが性差別であることに初めて気づかされ衝撃を受けた。

その後、平成13年11月に宮城県女医会は、千葉県知事堂本暁子氏をお招きして「女性の医学女性の健康」という講演会を開催した。この中で、女性の訴えをしっかり受け止めて聞き、女性の病気について内科、精神科、産婦人科および外科が連携しあって総合的に診断治療していく、千葉県東金病院における女性外来が紹介された。

2.宮城県女医会の健康相談事業の開始と公的助成
堂本知事の講演に触発されて、宮城県女医会として女性の健康を守るために出来ることはないかを議論し、女性の健康相談事業を始めることになった。
翌年の平成14年4月に事業を開始した。毎週土曜日の午後2時から4時頃までし、場所は仙台市医師会館を使用させてもらった。当初は会員のボランティアで事業を進めた。申し込みを受けるため携帯電話を購入し、これをその週を担当する医師が保管した。相談者には氏名と電話番号を留守電に入れてもらい、その後、担当医が自から相談者に連絡し、面談時間を決めていた。会員が交替担当し32名の会員が参加した。
女性医師であれば、今までの豊富な経験から対応できると考えて、科は問わず、すべての科の会員に担当していただいた。これが成功のカギになったと思う。担当する女性医師数をある程度確保しなければ、事業は成り立たない。少数の担当者では、担当回数が増えて、会員の負担が大きく対応できなくなってしまう。また、科を限定した相談ならば、わざわざ相談室に来るよりは、医療機関を探した方が良いことになる。
平成14年の相談件数は35件であった。平成15年8月から、宮城県がこの事業の重要性を認めて、助成金の交付を受けられるようになった。これにより、相談者の電話を受け取る窓口業務の方をお願い出来たため、相談事業が大変やり易くなった。担当していた女医会会員も、受付業務の煩わしさから解放された。そして、件数は平成15年には62件に増えた。
平成18年に、宮城県女医会総会にご出席いただいた仙台市長梅原克彦氏に、この女性健康相談についてお話したところ、大変優れた事業との評価を頂き、平成19年からは仙台市からも助成金を頂けることになった。仙台市では仙台市女性医療相談の名称を使って、相談場所も仙台市男女共同参画財団の相談室を使用することになった。そこで、従来の宮城県からの助成金を用いた相談事業は、仙台市以外の県内各地域で行うことにした。平成17年からは、1年に12回から14回実施しており、宮城県内の大河原、塩釜、大崎、石巻、栗原等の遠方へも会員が出向いて相談を行うことにした(表1)。仙台市からかなり離れている地域では、宮城県女医会の会員ではないが、健康相談事業への協力をお願いできる女性医師にも参加して頂いている。

3.女性健康・医療相談事業の実績
表1には平成15年から平成22年までの相談室の実績を示した。全体の件数は年間およそ100件である。相談内容は表の下に示しているが、主なものは、家庭内の相談、精神疾患、身体症状、婦人科疾患である。女性健康・医療相談室では、理解と共感を持った女性医師が30分程度の時間をかけてじっくり話をきいてくれるので、相談者は満足するようである。必要であれば、専門家の女性医師への紹介も容易である。
表2には電話受付件数を示した。面談による相談まで必要が無く、受付において処理している件数は、相談件数の倍に上っている。それらの理由も表にあげている。この受付をされている方は保健師であり、宮城県に勤務の経験もあり、優れた受付担当者である。表3には相談事業に参加した医師数を示した。年々参加医師数が増えている。
宮城県女医会の会員は現在108名であるが、約半数の会員が参加している。この中には数名であるが会員以外の医師も含まれている。相談を担当した女性医師にとっても、この事業は評価されていると思われる。今まで気づかなかった患者の受け取り方を知るよい機会となり、よりよい患者理解につながることなどで勉強になるとの感想が聞かれる。

4.相談の内容
女性健康相談室から見える女性の悩みは以下のようなことがあげられる。
①受診しなければならない病気だろうか。
②どの科にかかればいいのか分からない。
③治療を受けているのに良くならない。複数の科に関係した病気や症状があるのに、全体として診察してもらえない。主治医との信頼関係が築けない。
④家庭内問題の責任を女性がすべて引き受けてストレス大きい。家庭内の問題であるために相談する人がいない。
⑤身体症状や産婦人科の疾患でも、表面にあらわれている症状だけの治療では効果がない。カウンセリングや精神科受診が必要ではないか。
⑥女性の方が症状に気づきやすく悩むが、医師の方はその特性を理解できない。

5.性差医療を学ぶ
宮城県女医会は、健康相談事業を始めるにあたり、準備として平成14年の2月に研修会を開催して、カウンセリングについて学んだ。その後も毎年2月の研修会では女性健康・医療相談事業のまとめを行い、担当役員が実績報告を行い意見の交換をし、性差医療を学べる研修会を開催した。その他例会においても性差医療を学習する機会を増やし、よりよい健康相談ができるように研鑽を積んでいる。以下に研修会および例会の講演内容を記した。
1.カウンセリングの基本の「き」平成14年2月研修会
  つつじがおかメンタルクリニック望月美知子氏
2.女性健康相談室開始1年間のまとめ平成15年2月研修会
  森洋子クリニック山本蒔子会員宮城県役員
3.男性優位社会に生きる女性3月例会
  東北大学大学院情報科学研究所助教授ジェレミー・シモンズ氏
4.女性外来を開設して平成16年2月研修会
  東北労災病院呼吸器科副部長女性外来担当赤井智子氏
5.軽症うつ病の臨床-ワーキングウーマンの憂鬱平成17年2月研修会
  東北福祉大学教授浅野弘毅氏
6.女性の不定愁訴と漢方3月例会
  日本大学医学部東洋医学講座木下優子氏
7.産婦人科診療のピットホール平成18年2月研修会
  仙台市立病院産婦人科岡村智佳子会員
8.脳外科から見た日常診療に役立つ漢方治療3月例会
  国立病院機構宮城病院副院長佐藤智彦氏
9.過活動膀胱と腹圧尿失禁をどう診るか9月総会
  ―女性泌尿器科への誘いー
  名古屋第一赤十字病院女性泌尿器科部長加藤久美子氏
10.宮城県女医会健康相談室の現状平成19年2月研修会
  向陽台クリニック永井豊子会員宮城県女医会健康相談事業担当役員
11.高齢者循環器疾患における性差5月例会
  東京大学加齢医学准教授秋山雅弘氏
12.軽度発達障害の子ども達の支援平成20年2月研修会
  東北大学小児科奈良千恵子氏3.性差医療からみた動脈硬化予防戦略平成21年2月研修会
  鶴ヶ谷クリニック小竹英俊氏
14.糖尿病の新たな治療戦略平成22年2月研修会
  東京女子医科大学病院糖尿病センター佐藤麻子氏
15.女性のための睡眠学9月例会
  滋賀医科大学睡眠学講座特任教授大川匡子氏
16.子宮頸がんの予防はワクチンの時代に11月例会
  社会保険相模野病院婦人科腫瘍センター長上坊敏子氏
17.骨粗しょう症治療薬の特徴とその選択について-症例から考える-
  平成23年2月研修会弘前大学医学部産婦人科教授水沼英樹氏

また、市民に対しても公開講演会を開催して、性差医療を啓発している。
以下にその記録を記した。
宮城県女医会市民公開講演会
1.女性の健康女性の医学
  千葉県知事堂本暁子氏平成13年11月
2.性差を考慮した女性の医療ってなんですか
  千葉県立東金病院副院長天野恵子氏平成15年11月
3.女性のための紫外線講座
  弘前大学医学部皮膚科学教授花田勝美氏平成17年3月
4.悩まないで!尿のトラブル解決します
  東北労災病院第二泌尿器科部長浪間孝重氏平成18年11月
5.子宮頚がんにならないためにできること
  -若年化の問題、健診と予防ワクチンについて-
  横浜市立大学附属病院産婦人科准教授化学療法センター長
  宮城悦子氏平成22年2月

6.相談事業の意義と今後の展開
  女性健康相談室の意義は以下のようなことがあげられる。
  ①医療機関にかかっても相談できない女性の悩みの解決の一助になっている。
  ②医療機関において無視されている性差への配慮が出来る。
  ③夫や子供が精神疾患を持つ妻や母親への支援が出来る。
  ④女性は長寿であるため、配偶者の死に会う。喪失への支援になる。

相談事業では、相談者のその後の経過を知ることが難しいのが一つの問題点である。紹介した医療機関からの返事が、担当医師まで届かなかったり、相談事業であるために返事が来ない場合もある。相談者自身から、その後の経過について報告がもらえれば良いと思われるが、そのためには、あらかじめ返送用の用紙や封筒を渡すなどが必要と思われるが、今後の検討課題である。相談事業を開始して、宮城県女医会も10年になろうとしている。これを機会に、治療に結びついて軽快した症例、カウンセリングで成功した例や対応が困難であった例等の報告をまとめることも検討中である。

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