女性外来10年史

女性外来10年を振り返って

女性外来10年を振り返って

春日クリニック院長

清田真由美


1)おりひめの会
子育ての時期に週に半日だけ勤務していた老健施設で入所者の 9 割が女性で寝たきりの人のほとんどが女性であることに強い衝撃を覚えた。短期間その方たちの医療にもかかわったが、早くからの予防の必要性を痛感し、できる限りねたきり期間を短くしなければとの思いが強く残った。入所者には様々な人間模様があり、見舞いやお世話に来て、苦悩しているのもほとんど女性であった。老人病院という呼び名が一般的であった頃のことである。
寝たきり状態にならないために早期からかかわりたい、また、介護で苦悩する女性たちに寄り添いたいとの思いもあって開業した。さまざまな不定愁訴があり、親の介護に苦悩する更年期世代の人たちを診るたびに、彼女らをどのようにして救うべきだろうかと悩み、あちこちに情報収集に出かけた。NPOの団体にも参加して、更年期女性の生の声に耳を傾けた。更年期女性に関連する様々な学会、講演会に参加して回った。そして、介護に苦悩する時期と、自分が介護を受けないために体をいたわり始めねばならない時期がほとんど重なっていることに気付いた。介護に翻弄されている女性は、自らのことで病院を受診する機会が少ない上、たとえ受診してもとりあえずの治療のみに終わってしまう。その人のその後の人生にきわめて影響の大きいことが起きつつあることを考えさせる余裕もなかった。どうにか外来の診療の中でとがんばっては見たが外来だけでは、時間が足りない。
もっと体のことをトータルで考えてほしい。今手を打たないと、との強い思いから、1999年 7 月に、“おりひめの会”を立ち上げた。2 か月に 1 回の勉強会で、外来だけでは伝えきれない思いを語り、もっと自分の健康を総合的に考える必要性を訴えた。おりひめの会の継続の為に最新の正しい情報を収集して回っているとき、天野恵子先生との出会いがあり、性差医療、女性外来という言葉を知った。長年私の中でもやもやしていたことが吹っ切れた感じがした。
お忙しい中にもかかわらす、天野先生に 2000 年と 2002 年に熊本でご講演いただいた。
熊本の女性外来の普及に大きな影響があった。二度目は、同じ女性であることで強く関心をもたれた潮谷県知事にもご参加いただき、160 名の医師が集まる会となり大いに盛り上がったことを覚えている。

2)女性外来と性差医療

女性医師が内容を問わずに、じっくりと 30 分話を聞く医療が女性外来である。これは、女性に限らず、ある意味、理想の医療の形かもしれない。短時間で多数の患者さんを診なければ経営が成り立たない日本の医療事情は 3 分診療と揶揄されるが、“聞いてほしい”“わってほしい”という患者さんの支持を受けて、女性外来は瞬く間に全国に広がった。
ただ、時間ばかりかかる再診が続くと経営効率が悪くなり数年後は、仕方なく縮小に転じるところも出てきた。
当院では、更年期の相談は当時一般外来の中で行っていたが、2003 年 4 月より、水曜日の午後の休診の時間を女性専用外来に定め、予約、相談外来を開始した。ただ、希望日に予約が取れなくなると突然普通の診療時間に来院し“待ちます”という強硬手段にでる女性患者が増え、最近は対応に苦慮することもしばしばある。
女性外来、性差医療を実践する中で感じることは、女性だけでなく男性にも大切な医療スタンスだということである。実際、男性の相談も、少しずつ着実に増えてきている。
性差医療とは、これまで、男女合体したデーターや男性のみのデーターをもとに行われてきた医療を、性差を含めた個別性に配慮して治療を行っていくという極めて優しい医療である。人生そして最後までも視野におき、家族関係や今後の生き方について語り合いなが
ら診療を行うことができることはまさに医者冥利に尽きる。今後性差医療の理解が深まり、時間をかけてじっくりと患者さんを診る形が診療報酬上で評価されれば、患者さんのドクターショッピングも減りむしろ効率的な診療が提供できる可能性が高い。
少なくとも、私の中での、性差医療、女性外来は、医療の原点であり、今後しっかりと根付いてほし医療である。
九州は、性差医療・女性外来では、先進的な地域であると言われている。優秀で、先進的な先生方が多数おられる。これまでは情報収集には東京まで出かける必要があったが、九州で集まり、身近に学ぶことができる環境整備ができつつある。2010 年に念願のNAH
Wの九州支部を設立できたことは最大の喜びである。NAHWもやっと、当初予定のWEBを利用した動画での情報交換も可能になり、今後ますますの発展が期待される。NAHWが性差医療、女性外来発展の大きな力になれるよう、九州支部を立ち上げた一人として頑張りたいと思っている。

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