女性外来10年史

女性外来10年をふりかえって

女性外来10年をふりかえって

2001年5月鹿児島大学医学部第一内科 鄭 忠和教授の発案により、第一内科教室女性医師による女性専用外来が立ち上げられました。9月には、千葉県立東金病院(平井愛山院長)に堂本暁子県知事の要請を受けて女性外来が開設されました。女性外来は、性差医学・医療の実践の場であり、複雑で多岐にわたる症状に悩まされながら、医師にも、家族にも理解されず苦しんでいる女性たちの良き相談相手となり、性差を考慮した医療の実践をとうして問題の解決に当たることをめざしてきました。当初は更年期症状を訴えての受診がわずかに多いようでしたが、世間での女性外来の認知が進み始めたころより、若い世代での月経困難症、月経前症候群、メンタルヘルス等の相談がどんどん増え始めました。今ではどの世代を取っても、受診理由の2割以上が精神的症状によるものです。精神科や心療内科受診への敷居が低くなった今、既に、心療内科・精神科を受診している患者も少なくありません。しかし、多くの患者さんを診察して思うことは、精神科、心療内科の医師に内科疾患に対する知識の少ないことが治療のネックになっていると思われることがしばしばです。また、必ずしも、話しをきちんと聴いていただけないことも多いようです。

女性外来の理想的なあり方は、性差医療・医学の知識をきちんと踏まえたうえで、患者にきちんと対応することです。当然、一人の医師での守備範囲だけでは、問題を完全に解決できるとは限りません。女性センターとして、他分野にわたる女性医師が確保できれば、一番望ましい形でも女性外来運用が可能ですが、そのような施設は多くありません。そこで性差医療情報ネットワーク(New Approach to Health and Welfare:NAHW)は、女性外来を担当する医師が孤立しないよう、多くの提案をし続けてきました。ひとつには、多岐にわたる愁訴に対して有効な漢方治療の修得を目指したセミナーの開催です。婦人科疾患や、内科疾患の中でも性差の明瞭に存在する疾患(脂質異常症、片頭痛、骨粗しょう症など)等のセミナーも重ねてきました。同時に日本性差医学・医療学会(平成14年8月に性差医療・医学研究会として立ち上げ、平成19年2月に学会として発展)をとおして、日本人男女での健康と疾病における性差についての学問的研究の推進も行ってきました。平成24年度からは、U-streamによる、動画情報の発信も行います。

メタボ検診の前提は、「日本人の肥満が進行しており、そのことにより高血圧、脂質異常症、耐糖能異常が引き起こされている。今後の心血管疾患増加の抑制のために成人での肥満への介入指導を行わなくてはいけない」というものですが、確かに男性では、どの年齢層でも、年々、平均BMIが上昇しています。しかし、日本の女性では過去40年間、現在まで、世界で唯一年々平均BMIが減少し続けています。メタボ検診の前提が日本女性には当てはまらず、若い女性での“やせ”が実は深刻な問題化しているのです。メタボ検診に代表されるようにまだ日本の医療は、施策・診断・治療において性差の視点がきちんと導入されていません。女性の医療や健康に関するシステムは未だ十分に整備されているとは言えません。

女性外来は僅かずつですが、確実に一般市民の方々への認知が進んでいます。しかし、まだまだ性差医学・医療の認知が十分でない現実を反映して、女性外来への期待度が十分とも言えません。日本に女性外来が誕生して10年、ここで、来し方を振り返り、今後さらなる女性外来の発展のために何が必要かを考えてみたいと思います。そこで、各地で頑張っている女性外来担当医の方々に、今回、今までの道のりと今後への希望を語っていただき記録誌として残すことにしました。

2012年 吉日
性差医療情報ネットワーク 理事長
天 野 惠 子

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