女性外来10年史

福島県立医科大学付属病院女性専門外来から性差医療センターへ ~7年を振り返って~

福島県立医科大学付属病院女性専門外来から性差医療センターへ ~7年を振り返って~

福島県立医科大学付属病院性差医療センター

小宮ひろみ

福島県立医科大学付属病院女性専門外来は平成16年12月開設された。本学に「女性外来」をたちあげることはほぼ決定していたのだと思うが、果たして誰がどのような形で行うかは全く考慮されずに見切り発車された。福島県立医科大学前産婦人科教授である佐藤章先生が当時の学内の助手以上の女性医師十数名を集め、意見交換会が行われた。自分の本業の科があるので、ほとんどの女性医師が拒否的であった。佐藤教授は私の直属の上司であり、そのとき目があったような気がして、私は「できる形ではじめてみてもよいのではないでしょうか?」と気がついたら発言してしまっていた。佐藤教授は「そうか、じゃ先生やってくれるか。」と安堵されたように(?)おっしゃった。実はすでに教授の下には天野恵子先生から女性外来に関する多くの資料が提供されていたことを知ったのは、その後教授室にうかがったときである。余談であるが、私は女性医師が上司に「これをやってみないか?これをやってくれないか?」と言われた時は、チャンスと思い、可能なかぎり断らない方がよいかもしれないと思う。


1.診療について
女性専門外来はI期;振り分け外来(平成16年12月16日から平成18年6月30日)
II期;診断・治療が可能な外来(平成18年7月1日から平成20年11月30日)
I期内科医師6名、心身医療科医師2名、外科医師1名、産婦人科医師6名で開設した。
医師は各科の仕事をこなす以外に女性専門外来の負担もおうため、その負担を軽減することが重要と考え、女性医師数を可能な限り多くすること、患者の受診数を2回までとすることにし、傾聴、詳細な説明、セカンドオピニオン、他科紹介、近医紹介をする振り分け外来とせざるを得なかった。診療時間は第1、3木曜日及び第2、4月曜日、診察室は内科新患室を午後2時以降借りて開始した。この外来はアンケート調査にて満足度、再利用希望度は高いが、患者数は減少の一途をたどった。そこで、何度でも受診でき、診断・治療のできる外来のII期に移行する。医師数も内科1名、心身医療科1名、外科1名、産婦人科1名とし、診療日も増やした。診察室も産婦人科外来の一室を借り、午後2時からの外来として開始した。その後、何とか病院に実績が認められ、平成20年12月に性差医療センターとして開設された。性差医療センターになってからの診療としては、婦人科専任(小宮)、心身医療科、乳腺外科、内科(内分泌)各1人の医師が兼務で担当した。院内に専用スペースが増設され、プライバシーも保護された診察室となった。毎日の診療は完全予約制で、曜日によって診療科が異なる。小宮が専任であることから、婦人科は水曜日をのぞき診療を行い、他は各医師に調整してもらい担当日を決定した。大学という特徴もあり、医師の移動も多く、これまで皮膚科、泌尿器科、消化器内科にお願いしていたこともあったが、これは毎年年度末になると体制をみなおしながら継続してきた。当院性差医療センターでは、カウンセリング、初診、再診に区分し、カウンセリングは自由診療とし5250円(当日はカウンセリングのみ、検査や治療は施行せず)、その後に初診、再診としている。
開設以来、本年7月まで4660名が受診、近年は会津、喜多方、相馬、南相馬、少数ではあるが県外からも受診いただいている。これまで、危機的状況もあり、何とか細々と診療を継続してきたが、患者さんの理解また病院の理解も得られてきていると感じる今日この頃
である。産婦人科医である私自身は、このような傾聴、漢方を特徴としている診療は、ひとりの患者さんを治療するあるいはQOLを改善する全人的医療の重要な治療法のひとつであることを認識し、女性外来に携わるようになってから多くを学ばせていただいた。


2.福島県性差医療セミナーについて
開設から毎年、テーマを決めて「福島県性差医療セミナー」を開催してきた。

第1回新たな医療の発進をめざして
新しい医療の風:性差医療と女性外来
千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
大学病院における女性外来
山口大学医学部保健学科教授松田昌子先生
リプロダクションエイジを対象とした女性医療
国立成育医療センター周産期診療部母性内科医長村島温子先生

第2回漢方でいきいき健康ライフ
一般
女性のための漢方入門
日本大学医学部東洋医学講座医局長木下優子先生
医療関係者
性差医療(女性外来と漢方)
千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
女性外来における実践漢方入門
日本大学医学部東洋医学講座医局長木下優子先生

第3回性差を考慮した男女の健康を考える
一般
女性も知っておくべき男性更年期~夫が元気になると妻も助かる~
大阪大学大学院医学系研究科保健学准教授石蔵文信先生
医療関係者
性差を考慮した女性医療を広めましょう
千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
夫婦でなおす更年期-男性更年期外来の現状-
大阪大学大学院医学系研究科保健学准教授石蔵文信先生

第4回性差を意識した適切な医療の普及をめざして
特別講演
性差医療で医療がかわる
千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
一般講演
①天茆原順一先生秋田大学医学部臨床検査医学教授性差分子細胞免疫
②中村道子先生東邦大学医学部精神神経学講座准教授
③渡辺毅先生福島県立医科大学内科学第3講座教授
④大竹徹先生福島県立医科大学外科学第2講座講師

第5回性差医療と漢方なぜ漢方か
一般
女性にやさしい漢方
福島県立医科大学付属病院性差医療センター小宮ひろみ
医療関係者
女性外来と漢方千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
漢方はなぜ効くのか-現代薬理学からみた漢方薬の作用-
昭和薬科大学病態科学研究室教授田代眞一先生

第6回しなやかに性差医療
一般
女性特有のがんについて
婦人科がんを正しく知ろう
福島県立医科大学産科婦人科講師渡邊尚文先生
大切なからだのことー乳腺の病気について~
福島県立医科大学器官制御外科助教渡邊久美子先生
医療関係者及び一般
性差医療の現場千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
リハビリメイクとは~外観の心理学~
フェイシャルテラピスト歯科博士REIKOKAZKI主宰かづきれいこ先生

第7回性差を考慮した復興支援・男女共同参画
低線量被曝について考える~福島でいきるということ~
福島県立医科大学放射線医学講座助手宮崎真先生
性差医療と女性外来
千葉県衛生研究所所長・千葉県立病院副院長天野恵子先生
災害と男女共同参画~性差医療の視点から~
女性と健康ネットワー代表堂本暁子先生
巡回診療で思ったこと(いわき)あべクリニック副院長阿部雪江先生難所に女性専用スペースが生まれた理由(わけ)
福島県文化スポーツ局生涯学習課社会教育主事天野和彦さん

7回本セミナーが継続できたことは、毎年福島に寒い時期にいらしていただいた天野恵子先生、院内関係者の協力がなければ不可能だった。ここに深く感謝申し上げたいと思う。
継続は力であろうか、最近は「今年いつやるの?」といってくださる医療関係者が増えてきたことはうれしいことである。
また、市民向けに「元気アップセミナー」を年に2回開催している。婦人科、乳腺、心のことなどを取り上げ、院内講師に依頼し、学外の施設で施行している。


3.医学教育
平成21年度から医学部3年生の講義に「性差医療」が組み込まれた。
①性差を考える②性差医療と女性外来③心血管疾患と性差④メンタルと性差
⑤更年期障害骨粗鬆症と性差と5コマ担当している。平成24年度からは医学部4年生に講義を行う。


4.研究
平成22年度から本年度にかけて聖ルカ・ライフサイエンス研究所から助成金をいただき、栄養が女性の心に与える影響について解析するためBMI、血中レプチン、メンタルヘルスについて健康婦人と女性外来患者を比較検討した。これは若い女性におけるやせ傾向を啓
発するものである。データを英文誌に投稿すべく執筆中である。


5.今後の性差医療に期待すること
まず、性差医療(女性外来)の現場は何よりも患者さんに寄り添う医療の実践の場でなければならない。現代の医療は、これが実践できているとは言い難い。私も初めてこのような医療に接し、傾聴することや性差・年齢を考慮した医療がいかに重要であるかを認識した。私は産婦人科医であるが、これまで女性医療を率先して行ってきたつもりであった。しかしながら、それは婦人科腫瘍、生殖内分泌、周産期と点としてとらえた医療であった。性差医療を知り、これをつなぐ「ライフステージを考慮した」線にしなければならないのだと感じ、これを実践しようと努力している。
次に、性差医学を学問として発展させるためには、きちんとしたエビデンスの集積が必要と思う。性差医療・医学の体系化である。これをなくして、普及・発展はないと思うのは言い過ぎであろうか?次世代の医療関係者に対する教育・啓発のためにも必要で
ある。
今後は、性差医療・医学の発展のためにこの2点が両輪として重要であると強く思う。

Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.