女性外来の診察室から

第90回 薬用芍薬農作業ボランティアに参加して 

女性医療に漢方療法は重要な役割を果たしています。漢方は、患者さんの病態(陰陽、寒熱、虚実、気血水)に合わせて処方することができます。女性外来の診察室の中で、「どこの病院、クリニックでも治らなかった」「複数の科で検査を受けたが、異常なしといわれた」という患者さんに、漢方薬が驚くような効果を発揮することがしばしばあります。

 今回は漢方薬を構成する生薬の中の芍薬と「クラウドゥ只見」での体験を書いてみます。
(「クラウドゥ」とはオランダ語で薬草のことだそうです。)

 先日、福島県南会津郡只見町にある有限責任事業組合「クラウドゥ只見」が募集している薬用芍薬の根の掘り上げ、根折りのボランティアに参加しました。芍薬はボタン科の多年草シャクヤクの根です。「薬徴(吉益東洞著)」の中には「結実して拘攣するを主治するなり。旁ら腹痛・頭痛。身体不仁。疼痛・腹満・咳逆・下痢・腫膿を治す。」と書かれています。「古方薬議(浅田宗伯著)」には「血痺を除き、堅積(腹中の堅いかたまり)を破り、痛みを止め、中を緩め、悪血を散じ、臓府の擁気を通宜し、女人一切の疾、並びに産前産後の諸疾を主る。」とあります。筋肉の拘急攣縮をとるには重要な生薬です。芍薬は、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸という女性に頻用される3処方、また桂枝湯、葛根湯、芍薬甘草湯など2割以上の漢方薬に含有されています。

 日本における原料生薬の使用は約26000トン、日本での生産はその中で10.7%(日本漢方生薬製剤協会 生薬学雑誌 73, 16-35, 2019)です。薬用芍薬使用量に対する国産比率は1.5%程度(2018年)です。漢方薬原料は80%以上が中国からの輸入で、国産の原料の割合は低下傾向にあり、漢方薬原料の国内栽培が求められています。医療用生薬は品質(日本薬局方の基準をみたすこと)、安全性(農薬が基準値以下)、安定供給(一定の品質で年間を通して供給可能であること 薬価以内で供給できること)が要件になります。国産化できれば、品質管理やトレーサビリティが容易ですし、何よりも原料の枯渇を回避することができます。そのために、医療用生薬の国産化が期待されているところです。

 有限責任事業組合「クラウドゥ只見」は福島県南会津郡只見町で薬用芍薬を栽培することにより、安全で良質な生薬原料を安定供給することと、只見町のまちづくりに貢献することを目的に2012年に創業されました。芍薬は中国北部からシベリアに自生しており、寒冷で豪雪地帯の只見町は芍薬栽培に向いていると考えられたようです。現在は、生産者の方、健康食品メーカー、漢方薬メーカー、会津医療センター漢方内科教授 三潴忠道先生、薬剤師さん、患者さんが「只見芍薬会議」を結成し、それぞれの専門性をだしあって、栽培について検討しながら活動をすすめておられます。また、会津医療センター漢方内科で使用される芍薬は只見ですべて生産され「薬の地産地消」に貢献しています。さらに、芍薬の根ばかりではなく、美しい花を利用して「薬草茶」やひげ根を利用して「入浴剤」の開発にも取り組んでおられるとのことでした。

 今回、私は1泊2日でボランティアに参加させていただきました。芽を傷つけないように、できるだけロスが少ないように一つずつ芍薬の根を採り、時間はあっというまに過ぎていきました。他のボランティアの方と一緒に作業しましたが、楽しい貴重な体験になりました。今回、参加させていただき、生産者の方のご苦労や生薬のありがたさを強く感じました。そして、生産者の方を中心とする只見町の皆さんの心のこもった温かいおもてなしに感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 折しも、2022年10月1日「絶景の秘境路線」といわれる只見線が11年ぶりに全線開通し、只見町駅周辺は賑わいをみせていました。只見町が活性化し、薬用芍薬栽培が安定供給されることを心から祈るばかりです。

 これを読んでいただいた皆様、「クラウドゥ只見」では、薬用芍薬栽培のボランティアを募集しています。日常を離れて、大自然の中での農作業は、生産者の方や(あらためて)漢方薬に感謝する機会になります。また、常日頃の自分の生活を見つめ直す素晴らしい時間になると思います。皆さんも、一度、ボランティアに参加してみませんか。私は、また、伺いたいと思います。

以下に「クラウドゥ只見」のURL紹介します。どうぞご覧ください。
https://www.facebook.com/klaudhu/

福島県立医科大学附属病院 性差医療センター 
小宮 ひろみ

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