女性外来の診察室から

女性外来の診察で気づいた「HSP: Highly Sensitive Person、繊細さん」

女性外来を長く担当していて感じてきたことは、女性外来受診者の方は、容易に体調を崩される、と言うことです。他の外来で通院されている、高齢者、糖尿病患者さんなど世間ではリスクが高い、と評価されている集団に比べても、すぐに、またはふとしたきっかけで「体調が悪く」なったり「気分が塞いだり」する方が多いのです。「すっかり体調も良くなりました」と伺った次の外来で、「具合が悪くて、つらいです」と、おっしゃる方が多いのです。また、花粉症の時期はもちろん、通年性のアレルギーの方が最近は増えましたが、「いまは黄砂が多くて辛いです」、など、鋭敏な指標で体調の変化を言われる方もおられます。近年話題の気圧の変化で症状が出る「天気痛」の方も多く、梅雨時や、台風後などに、頭痛、めまい、倦怠感などに悩まされています。気圧のわずかな変化を鋭敏に感じ、体調を崩されるのです。ちなみに、「天気痛」には漢方薬の「五苓散」という体内の水のアンバランスを改善する水毒のための処方が有効で私の外来に通院中の方は、ご自身で調節して内服しておられます。
そして、明らかに異なるのが、悲しいニュースに対する反応です。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった際の変化は顕著でした。ニュースを見るのが辛い、悲しい、とは皆様言われますが、一般の方にとっては、遠くの国のことであり日常生活は通常通りです。ところが、女性外来の方の中には、すっかりうつ状態になり、日常生活に支障が出る方が多くおられました。安倍元首相銃撃事件のときにも。このことをきっかけに、女性外来の方が容易に体調を崩すのは、いわゆる「HSP: Highly Sensitive Person、繊細さん」が多いからなのでは、と考えるようになりました。他者の痛みを、自分のことのように感じ、さまざまなことに、深く広く思いを巡らせるために、体調を崩しやすいのではと思ったのです。こうして、書きながら、漢方薬への反応も鋭敏で、1/3量で十分ですと言う方や、体調の変化を細かくお話しされる方が多い、と感じていましたが、それもHSPの特徴であったのかもしれないと思いました。今後、心理学的アプローチなりますが、HSPのセルフチェックテストなどを診療の場で行ってみたいと思います。以下に、HSPにつき記載しておりますので、参考になさってください。

HSPは、心理学者(エレイン・N・アーロン氏の提唱する概念で、「ひといちばい敏感な人、生来非常に繊細な人」です。「繊細さん」という言葉で、本も多数出版されていますので、読まれた方も多いかもしれません。HSPとは人口の15~20%ぐらいいて、遺伝子的に敏感で、内的な経験を深く考える傾向があり、そのため必然的に、外の出来事に圧倒されやすい神経システムを持って生まれた人のことです。人の気持ちに敏感で、感覚も鋭敏なため、人の気づかない変化に気づいたり、危険予知に優れていたりする一方、気がつきすぎで疲れたり、変化に慣れるのに時間がかかったりします。人間だけではなく、他の動物にも同じくらいいて、危険予知能力に優れるため、種の保存にも役立っているようです。
HSPの特徴を示すD・O・E・Sを記載しますと、
D(depth:深く受け止める)、O(overstimulated:刺激過多、全てを深く受け止めて、しかも受け止めるものがたくさんある)、E(emotionally responsive:感情反応と、empathy:共感)、S(sensitive to subtle stimuli:ささいな刺激に対する敏感さ)です。
日常生活でも、深く受け止めて、少しの情報から、多くのことを察したりするために、先のことまで考えすぎて、時間がかかったり、動けなくなったりします。刺激に敏感で、音や、匂い、皮膚の感覚などが鋭敏なため、刺激が多いと感じ、疲れてしまうことがあります。人の感情や機嫌の悪さなどにも敏感で、ほかの人の苦しみや辛さを自分のことのように感じてしまいます。
HSPの方の特徴は、長所にも短所にもなりますが、特徴を知り、自分を認め、対応していくことで生きやすくなるようですので、今後、そのような視点で外来診療を通じてお伝えしていけたらと思います。因みに、HSC(Highly sensitive child)は、HSPの子どものことで、感覚や人の気持ちに敏感で傷つきやすい子ども、で、不登校の原因としても注目されています。
ご自身、ご家族、パートナーなど心あたりのある方は、サイトや本をご覧になっていただけたらと思います。また、H S Pは病気ではなく特性で、心理学の範疇ですが、状況によっては精神科的に、「不安神経症」などの病名がつく場合や、「発達障害」「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」などが原因で、HSPの状況にあてはまることがあります。ご自身での工夫でうまくいかない場合や、心配な場合には、受診され相談してください。

天気痛について
NHKでの特集番組サイト
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4648/

HSPに関して
エレイン・N・アーロン公式サイト The Highly Sensitive Person
http://hspjk.life.coocan.jp
「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本
武田友紀  飛鳥新社
鈍感な世界に生きる敏感な人たち
イルサ・サン 枇谷 玲子訳  ディスカヴァー・トゥエンティワン
ひといちばい敏感なあなたが人を愛するときH S P気質と恋愛
エレイン・N・アーロン著 明橋大二訳 青春出版社

東京大学医学部附属病院老年病科内女性総合外来
アットホーム表参道クリニック副院長 宮尾益理子

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