女性外来の診察室から

No.74 日本性差医学・医療学会 第14回学術集会を主催して(アットホーム表参道クリニック)

アットホーム表参道クリニック副院長、東京大学医学部附属病院女性総合外来 宮尾益理子先生の投稿です。

ハートを持つ女性

 

今回の「女性外来の診察室から」では、2021年2月6,7日に第14回日本性差医学・医療学会の学術集会を主催しましたので、そのことを中心にお伝えしたいと思います。本会では、「人生100年時代の性差医学・医療」をテーマに、秋下雅弘会長(東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座)の元、副会長を担当させていただきました。当初 東京大学構内での現地開催を予定しておりましたが、直前に緊急事態宣言下となり、完全Web開催となりました。全国の参加者に時間の制約もなく視聴していただけましたが、face to faceの質疑応答の盛り上がりにかけたことは残念でした。

シンポジウムでは、初日に成長・発達期、人生前半の性差として「1.少子化の理由とその対策」「2.発達障害の性差」を、2日めには、人生後半の性差「3.サルコペニア・ フレイル」「4.老年医学の重要課題とその性差」を取り上げました。シンポジウム1では恋愛、結婚事情の統計、産業保健における少子化対策、産婦人科、泌尿器科の立場から、男性不妊症、卵巣の加齢を取り上げ、まさに政治、教育、生活、環境あらゆる方面からの対策の必要性を実感、政策を担当する人に聞いていただきたい講演となりました。発達障害の性差では、親子、カップル関係からも取り上げ、生活に入り込んだ性差医学の重要性を痛感しました。2日目は老年医学の視点で、サルコペニア、フレイルに関し、骨粗鬆症を通じて筋・骨のクロストーク、漢方をテーマに生薬の性ホルモン作用、高齢者の閉じこもり、社会的孤立という社会的フレイルを取り上げました。シンポジウム4では、老年医学全体の性差に加え、認知症、老年社会学、エンドオブライフ〜倫理的思想の観点からの性差をお話いただきました。肉体・精神的、全人的に「人は生き、老いて亡くなる」、という過程での性差医学医療の重要性を改めて認識しました。

教育講演では「百寿者研究と性差」で人生100年時代に思いを馳せ、現在全世界的な問題の「COVID-19と性差」では、感染症を通して性差医学・医療を改めて強調しなくては、と思いを新たにしました。高齢者の栄養、更年期や月経関連障害と女性のうつを取り上げた共催セミナーもありました。そして、今回から、性差医学医療認定医、指導士取得のための講座が始まりました。(プログラムの詳細はこちらhttp://www.jagsm.org/shukai2021.html)  

性差医学・医療学会は、2004年に天野恵子先生が代表世話人になられて設立された「性差医療・性差医学研究会」が前身となり、2008年に「日本性差医学・医療学会」として、発展的に設立されました。本会(性差医療情報ネットワーク)が、2002年8月に立ち上げられたのとおおよそ同じ時期になります。「性差医療・性差医学研究会」としては、4年間に4回の研究会が開催されました。第2回の学術集会(2005年)は、大内尉義先生大内尉義先生(当時:東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)が会長を務められ、私は事務局を担当しました。それから16年を経て、性差医学医療を取り巻く環境も、医師を取り巻く環境も変わりましたが、まだまだ道半ば、学会も認定医・指導士制度も始まるなど発展はしていますが、世代交代が思ったように進まないなど、問題も山積しています。 

私自身は、2003年から「東京大学附属病院女性総合外来」を開設し、18年になりました。20代の女性も更年期が気になる年頃に、更年期女性は老年期になっています。患者さんご自身の結婚や妊娠・出産、就職、職場でのパワハラによる休職や復職、介護が大変だったご両親の他界、不登校だった息子さんの進学や就職、お嬢さんの結婚や離婚、ご自身や配偶者の闘病など、人生における大きなストレス、日常の小さなストレスが心身の健康に与える影響の大きさを、共有させていただく外来のように思います。

3年前から、主な勤務先が病院からクリニックに変わり、病院での専門外来での診療より「かかりつけ医」の役割を担う診療が中心となりました。女性外来での「パートナードクター」としての診療をさらに実践させていただく日々です。

パートナーの皆様、これからもよろしくお願いいたします。

 

アットホーム表参道クリニック副院長

東京大学医学部附属病院女性総合外来  宮尾益理子

 

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