女性外来の診察室から

NO.72 COVID-19報告(名古屋市・磯部内科医院)

磯部内科医院院長 伊吹 恵里先生の投稿です。
※2月時点の状況のご報告の掲載となりますことをご容赦下さい。

マスクする小学生

 

NAHW会員または読者の皆様。ご無沙汰しております。

名古屋市で内科開業しております伊吹と申します。

愛知県では現時点で東京都や大阪府と同様にCOVID-19第3波の緊急事態宣言が未だ解除されず、高齢者感染・入院者数が一向に減らないことで医療は逼迫し、まだまだ予断を許さない状況です。(図1.)

思い起こせば、今から約1年と少し前の2019年12月の頃、例年よりもインフルエンザ感染者数が増加しており(図2.)、おそらくそのままの勢いが続いて2020年1月以降もインフルエンザが猛威を振るうものとばかり思っていました。

そして、その頃中国・武漢で新型ウイルスによる肺炎が発生したとの一報もありましたが、それはあくまでも遠い中国に地域限局性に起きていることであり、これまでのSARSやMERSのごとく、日本には飛び火せずに済むものなのであろうなどと甘い認識でいられた時期でもありました。

ところが、1月に入るやいなやインフルエンザ患者数は飛ぶ鳥が落ちる(?)勢いで減少しはじめました(図1.)。ウイルス界に一体何が起きたのか?

こんな妙なインフルエンザの動きは未だかつて経験したことがなかったので、思わず2009年の新型インフルエンザ流行(この年は大変奇妙なことに、冬ではなく夏から流行が始まりました。図3.)を想起せずにはいられませんでした。

そして、「絶対に今年のインフルエンザの動向はヘンだから、ひょっとしたら新型インフルエンザが発生して流行る前兆なのかもしれないよ。見ててごらん。」などと「最近のインフルエンザ患者数はどうですか?」とつぶやきながら当院を訪問するMRさんたちに話しかけていたものです。

ところが、蓋を開けてみたら2020年に流行・蔓延したのは新型インフルエンザではなく、インフルエンザなどよりもうんとタチの悪い新型コロナウイルスでした。

2020年の2~3月頃には、「新型コロナ対策でみんながマスク着用をしたり手洗いで感染予防をするようになったから、インフルエンザの流行も抑えられている。」という意見をよく耳にしましたが、少なくとも2020年に関しては、それは違っています。図4.のごとく、日本国内では、新型コロナウイルス感染者数が増え始める以前に、これから猛威を振るおうとしている凶悪な新型コロナウイルスの登場にまるで遠慮するかのように、コロナ前夜にはすでにインフルエンザウイルスは蜘蛛の子を散らすようにそそくさと消退していった状況があったのです(図4.)。

生体の消化管の中での菌交代現象さながらに、自然界のなかのウイルスにも勢力争いのようなものがあるのではないかとさえ感じてしまいます。 

 

以前天野惠子先生から「COVID-19の病態の本質は血管内皮に炎症が起きて血栓症が惹起されることである。」とのイタリアの論文のご紹介を戴き、COVID-19によってもたらされる病態のほとんどはそれで説明できると大変腑に落ちたのですが、最近、若年層においても問題になっているCOVID-19感染後遺症(“Long COVID”とも言われているようですね。)も、ほとんどの事象がそれと大きく関係しているように思えてなりません。

最近、爆笑問題の田中氏を襲った前大脳動脈解離も、ひょっとしたら昨年夏に罹患されたCOVID-19による血管炎の後遺症である可能性も否定できないように思われます。

前大脳動脈解離発症前に田中氏は脳ドックを受けていて(毎年受けておられるとのこと。)、異常なしであったと伝えられていますし。

まるで、川崎病に罹患した数年後に発症する冠動脈瘤を彷彿させる事象のように思えます。将来的には「COVID-19感染後は全身の血管を一定の期間フォローアップすることが望ましい。」というガイドラインができるのかもしれません。その場合、Dダイマー、高感度トロポニンTやCRPなどと各種画像診断を組み合わせることになるのでしょうか。

 

町医者の私としては、今後のウイルス勢力地図がどのように塗り替えられていくのかを注視しつつ、我がクリニックの職員や患者さんたちそして家族を感染症から守るためにできる対策はすべて講じ、頻回になった医師会からの通達に逐一対応しながら、いつも通りの診療を提供する事に努めていく気の抜けない日々がまだ当分続きそうです。

 

 

磯部内科医院 院長

 

伊吹 恵里

 

 

 

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