女性外来の診察室から

No.51 患者さんに寄り添うということ(千葉県 春日医院)

千葉県柏市春日医院 春日葉子先生の投稿です。

 鏡に向かって髪をいじる女性

 

4月のとある日、細身で表情に陰のある女性が来院されました。

44歳で初診です。

問診票には「今年1月から頭部の脱毛、下痢があり調子が悪い」と書いてあります。

 

「脱毛」の御相談??? うちは内科の診療所ですが??? 

患者さんの間接的な知人が以前、私が女性専用外来を担当していた病院の看護師ということがわかり、外来が閉鎖になって9年経ちますがこんな紹介も未だにあることを感慨深く思いながら診察に入りました。

 

患者さんは私立高等学校の音楽教員で、昨年度は高校3年生の担任でした。

受験生を抱え、生徒に対して親の気持ちになってしまいかなりのストレスを感じ、自分でも頑張り過ぎたと思っているとのこと。

アトピー性皮膚炎で皮膚科には定期受診しており、多量の抜け毛が認められるようになってからステロイド外用剤が処方され、皮膚疾患以外の問題があるかもしれないとの説明にて近医内科受診。

 

持参した血液検査データでは、甲状腺機能異常、著明な貧血などは認められず、成長ホルモンが一時的に高値で、念のため施行された頭部MRIに異常はありませんでした。

皮膚科からプレドニンの内服薬が2週間処方されるも脱毛は一向に治まらず、しばらく経過観察と言われ、とても不安に感じているとのことで来院。

 

ウィッグを取ると地肌が透けて見え、歩いただけでも床に髪の毛が散らばることを気にされている様子がお気の毒でした。

同時期より食後の下痢が続き、食欲はあっても食事量が自然と減っていたためか体重が減少。一体、自分の体はどうなってしまったのかと困り果てていました。

 

ここまでのお話で、ストレスが脱毛と下痢のぞれぞれに影響しているように見えますが、脱毛と下痢が直接関係するような疾患が隠れていないかを検索する必要があると考え、まずは内視鏡検査等の施行を提案。

しかし、消化器疾患がなかった場合、あっても脱毛との関係があまり深く考えられなかった場合の次の策が浮かびません。

 

患者さんの訴えは脱毛と下痢の両方ですが、どちらかというと脱毛の方が精神的ダメージが強く、藁にも縋る思いで来院されたと感じたので、方針を変更。

皮膚科に脱毛症外来という特殊外来があり、かつ消化器内科もある都内の大学病院を見つけ、両科へ同時に紹介しました。

 

結論から申し上げますと、抜け毛は円形脱毛症の全頭型で予後良好、全体に終毛が伸びて来ており外用や内服は不要で時間待ち、下痢は過敏性腸症候群疑いとのことで両者に直接の関係はありませんでした。

 

紹介先から報告書を頂いてはいましたが、患者さんの状況が気になったので2回程電話で確認。

紹介してから2か月後、現状報告のためにわざわざ受診された時の表情は明るく、想像以上に髪の毛は伸び、下痢も軽快していました。

 

その際、患者さんから「あの時は絶望的だったが適切な病院を紹介してもらい、それぞれの科できちんと説明して頂いたので気持ちがとても楽になった。

自分も人と関わる仕事をしているので、先生の患者に対する姿勢が大変勉強になった。」と話して下さいました。

 

私は病院へ紹介しただけですが、患者さんが何に困って何を求めているかを考え、それに寄り添うことが医療の基本であることを改めて胸に刻んだ出来事でした。

 

千葉県柏市 春日医院 春日葉子

https://health.goo.ne.jp/hospital/fbj-156033

 

 

 

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