国立関門医療センター 女性総合診療・循環器内科センター長 早野智子先生の投稿です。
NAHW会員の先生方には、日頃より貴重なお教えを頂きまして、誠にありがとうございます。
この紙面に筆を執る機会を頂きましたことに感謝申し上げます。
千葉県立東金病院の女性専用外来を見学させて頂き、当院での女性総合診療外来を立ち上げてから16年目となります。
10~20歳代女性の拒食症や、10代女性の下垂体過形成に伴う二次性徴異常等を経験することもありましたが、最近の診察室でお会いする女性に多い主訴を挙げますと、
20~30歳代で
1)月経周期に伴う心身の不調、2)冷え、3)発汗異常、
4)パニック発作・メンタル障害、
40~60歳代で
1)日々続く心身の不調・疲れやすさ 2)冷え 3)発汗異常 4)のぼせ・ホットフラッシュ 5)動悸 6)パニック発作・メンタル障害
等となります。
心と身体の不調は互いにリンクしていますが、初診ではまず心の状態を診るために、診察室の前室(個室)でストレス耐性と現在のストレス度を30分かけて問診します。その後、主治医による診察を1時間行い、必要時にはさらに心理テストを心理療法士に依頼し、カウンセリングの併用や精神科専門外来への紹介を検討します。
身体の不調については、主に内科的診察を行い、産婦人科・乳腺外科等と連携しています。
*発汗異常では
バセドウ病による多汗・顔面や手掌の緊張性発汗が最も多いのですが、中には汗腺自己免疫疾患による無汗症の50歳代の方もおられ、最終的に愛知医科大学発汗外来にご紹介し、入院されてパルス療法を受け完治されています。熱い時節の触診で、両側の腋窩に全く汗・湿り気を認めないことが、最初のカギとなる所見です。熱中症にもなりやすいため、問診も重要と思われます。
*動悸では
貧血〔20~30歳代で鉄欠乏性貧血、40歳以上で萎縮性胃炎由来のビタミンB12欠乏性貧血〕、甲状腺機能異常〔バセドウ病・橋本病〕、高血圧症、不整脈、交感神経過緊張が多いのですが、最近は低血糖発作が隠れていた症例もありました。
*冷え・疲れやすさは
気・血・水の見地から漢方薬が心強い味方となりますが、診察室でお会いする方々を拝見しますと、筋肉不足・体重不足または過多・歩き方や姿勢のクセが皆さんそれぞれにあるようです。
例えば、パソコンに終日向かい猫背になると、胸郭呼吸が浅くなり、呼吸が早くなるとともに疲れやすくもなります。鎖骨下の皮膚を自分の手で押さえてもらうと飛び上がるほど痛がる方は、肋間筋の疲労があると思われます。腹式呼吸の練習や体幹筋を鍛えるストレッチ体操がお勧めです。
いずれの年代でも、体調を整える大事なお膳立てとして、
1)4つの生活基本習慣:食事・睡眠・運動・排泄を主治医とともに振り返り、
見直し、自分に合う方法で改良すること、
2)その結果、程よい部位に程よい筋肉をつけて、適正体重を目指すこと、
3)筋肉をつけつつ、浅い呼吸や関節に負担となる歩き方など、
無意識のうちに疲労感の基となる動作のクセを減らすこと
が、今さらながら、とても大切と近年感じております。
慌ただしい社会環境の中、好むと好まざるとに関わらず、体内でも変動を重ねる女性と日々お会いする中で、「毎日の暮らしで体のクセをとり生活習慣を整えなおすこと」は、身体だけでなく心への効き目も大きいと実感します。
この、ささやかですが、続けることはなかなか難しい目標を目指して、診察室での佳き出会いを、下関市内外の家庭医・スポーツトレーナー・各専門科ドクター・東洋医学家の方々との輪に広げてまいりたいと願っております。
今後とも、変わらぬ温かなご指導ご助力のほどを、どうぞよろしくお願い申し上げます。
国立関門医療センター 女性総合診療 循環器内科
センター長 早野智子
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