女性外来の診察室から

No.38 女性外来通院で、不登校児童が看護大生へ

石川県立中央病院 糖尿病・内分泌内科診療部長 藤井寿美枝先生の投稿です。

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2003年415, 当院において, 女性専用外来がトップダウンからスタートした。

 

当初は、右も左もわからず、2003314, 15日に千葉県立東金病院へ、看護部長や外来師長と見学に行き、平井院長を初め皆様に説明して頂き、また15日には実際の女性専用外来での診察を3人見学させて頂いた。その時の資料を元に当院で準備を行った。

 

また既に本邦で始めて女性専用外来を開始した鹿児島大学第一内科の鄭教授や嘉川先生にE mailを送り、資料を頂いた。

金沢市内の女性医師(精神神経科や産婦人科)に電話またはE-mailで連絡して, 当院からの紹介患者さんを引き受けて頂けるように、診療協力をお願いした。

石川県庁の健康推進課から, 石川県在住の女性の健康実態に関する資料を頂いた。

診療時に患者に提示する為に, 疾患に関する現在のEBMをわかりやすく示すパンフレットや資料を作成した。

 

当初の診療は、平井院長に御助言を頂き、まず県立病院としての使命である, 石川県在住の女性の健康上の問題点に則した診療を行うことも念頭においた。

石川県内の女性では, すでに以下の問題点が挙げられていた。

 

1) 乳癌と子宮癌の検診受診率は全国平均より2%低い。

2) 境界型高血圧症は全国より5%多く, 70歳以上の女性で増加する。

 また それによる心疾患、脳血管疾患および腎不全は男性の1.21.5倍多い。

3) 高脂血症は検診受診者の42.8 %と多く, 55歳以上の女性で男性より多い。

4) 貧血は全国より10%多く, 40歳代と70歳以上の女性で多い。

5) 糖尿病予備群は40歳代と5559歳の女性で多い。

6) カルシウムと鉄の充足率が740歳代で低い。5060歳代は過体重である。

 60歳以上では運動習慣が減少している。

7) 壮年期女性の心と体の調査では24ケ所以上の診療機関を受診している女性が50.9%にものぼる。

 

その後約14年が経過し、その間、Gender specific medicine (性差を考慮した医療)という言葉が用いられるようになった。

女性の高脂血症は, 50歳前後から発症率が急激に上昇する。

肥満やその合併症(高血圧や糖尿病)も、殆どが閉経後に発症する。このような事実から、従来はエストロゲンの欠乏が病態に何らかの影響を及ぼしていると言われてきていた。

しかし、ホルモンだけに原因を求めるのではなく、疾患が起こる背景として、女性の生活パターンなどいろいろの要因も含めた上で、女性に発症する疾患の特異性を考えながら、チームで、患者さんの診療に関わってきた。

 

女性外来を継続していき、最近は新たな切り口を暗示する症例に遭遇した。

17歳の高校生で、登校拒否と原発性無月経である。

中学生から朝は登校できず、小児科はもちろん、小児心療内科にもカウンセリングを受けたが、改善はない。

原発性無月経に関しては、産婦人科に受診し、女性ホルモン療法(カウフマン療法?)を提示されたが、母親も本人も納得できなかった。

 

そこで、かかりつけの小児科医師から当院の女性外来に紹介を頂いた。

現在も朝は急に体調不良から、母親が車で強引に学校に連れていく。車の中で、食事も摂取するが、朝は眠く、うつ症状もないという。身体所見はターナー分類のII度であった。

 

そこで、下垂体系の内分泌疾患を疑った。下垂体MRIではラトケ嚢胞を認め、負荷試験では、成長ホルモンの反応が低下し、IGF-1-3.2SDまで低下していた。性腺系のホルモン(FSH, LH)も負荷試験での反応は低下しており、骨端は未だ閉鎖していなかった。

そこで、重症の成長ホルモン分泌不全症と診断し、成長ホルモンの補充療法を開始した。

 

成長ホルモンは 0.04 mg/Kg/週まで増量し、体重が3 kg/年増加、身長も 4 cm/年増加、握力も両側 2.4 kg増加し、朝の眠気、夕方の倦怠感が改善した。

すると、下垂体性腺系のホルモンの負荷試験での反応や血中エストラジオールも38.9 pg/mlまで正常化し、月経も発来してきて、登校拒否も改善し、今は、看護師を目指して、看護大学の学生である。

 

原発性無月経の原因において、成長ホルモン分泌不全が潜在している報告は散見されるが、登校拒否の精査中に成長ホルモン分泌不全が潜んでいるような報告は、殆ど見られない。

 

小児期に発症したかもしれないし、成長ホルモン分泌不全は、成人発症ほど、症状が出現しにくく、成人のような、体脂肪増加を伴う肥満も出現しにくいと言われている。

また、下垂体疾患で、成長ホルモン補充療法を受けている場合には、性腺系のホルモンを補充する際には、成長ホルモンの補充の増量が必要になってくる事実は、教科書に記載されている。

 

小児科、産婦人科と内分泌内科医師が連携診療を行い、このような患者にも幸福をもたらす女性外来を継続して良かったと、つくづく思う今日この頃である。

 

この看護大学生は、今後は患者さんに、きっと素晴らしい看護を提供するであろうと期待している。

 

石川県立中央病院  糖尿病・内分泌内科診療部長

藤井寿美枝

http://www.pref.ishikawa.jp/ipch/annai-02-dr.html

 

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