女性外来の診察室から

No.33 めまいも胃腸から治す。(和歌山労災病院)

女性専用外来 辰田仁美先生の投稿です。

 

女性外来には多愁訴の方が多く受診されます。

めまいでドクターショッピングをしたのちに漢方外来にこられる患者さんも多愁訴の方が多く、どの症状から処方を始めようかと迷うこともあります。

 

69歳の女性の症例を紹介します。

 

1年前に自損事故で頚椎症になり、脳神経外科、整形外科に通院し、徐々に改善傾向でした。2か月前に台所の吊り戸棚で軽く頭部を打ち、翌日、めまい・ふらつきで起床出来ず、4回嘔吐したため、救急車にて受診されました。

頭部CTは異常なく、投薬を受け帰宅しましたが、その後、胸が悪い、胸部が痛い、息苦しいなどの症状が持続し、外出できない状態となりました。再度脳神経外科にて、頭部MRIで精査を行われましたが、異常は認められず、漢方外来を紹介受診しました。

 

現症は、身長157㎝ 体重47Kg、中背でやや痩せ型でした。脈候は、沈。舌候は、やや胖大で歯痕を認めましたが、舌下静脈怒張はありませんでした。腹力Ⅱ/Ⅴ、胸脇苦満なし、臍傍動悸認めず、瘀血圧痛点もありませんでしたが、小腹不仁を認めました。

 

東洋医学的に考えると、

舌やや胖大 歯痕(+)、めまい・ふらつき⇒水毒

胸が悪い(胸部が痛い)⇒気滞

息苦しい⇒気虚

と考えられます。

そこでまず、苓桂朮甘湯を処方しました。

 

2週間後には、ご本人は少し改善傾向とおっしゃるものの、依然胸部不快感とふらつきがあり、頭痛と下半身の冷えもありました。舌の歯痕はまだ残っていたので、苓桂朮甘湯は効果がないと判断し、半夏白朮天麻湯に変更しました。

 

4週間後、めまいはまだ残るが、ふらつきはほとんどなくなり、胸部不快感は改善し、頭痛も消失したので、半夏白朮天麻湯を続行しました。

4週間後には、歯痕はほとんどなくなり、めまいが軽くなり、間隔も長くなってきました。車の運転や掃除以外の日常生活はほぼできるようなり、症状はかなり良くなりました。

 

その後、約1年継続し、体調が悪くなるとめまいが出現するので、半夏白朮天麻湯を自己調節しています。

 

<苓桂朮甘湯と半夏白朮天麻湯> 

苓桂朮甘湯は、茯苓、白朮、桂枝、甘草の4味から構成されます。水毒の上衡と気の上衡のため、めまいや心悸亢進が生じている時に、茯苓と白朮の利水作用で水毒を改善し、桂枝で気の上衡を下げ、甘草でそれらの作用を中和することにより、めまいや頭痛を治療する処方です。

 

一方、半夏白朮天麻湯は、半夏・天麻・黄耆・人参・白朮・茯苓・沢瀉・陳皮・麦芽・乾姜・黄柏・生姜と12味から構成されます。

人参と黄耆を含むことから参耆剤の一種です。胃腸虚弱のある人のめまい、頭痛、嘔吐の時に使用しますが、冷え性、全身倦怠感などを認めることもあります。腹診では腹力は軟弱で、心窩部振水音を認めることが多いです。

 

一般的に構成生薬が多くなるほど効果出現までに時間がかかります。

苓桂朮甘湯は4味なので、比較的即効性も期待できますが、半夏白朮天麻湯は12味で、作用としては胃腸の調子を改善することにより、水をさばいて、めまいをとる薬なので、めまいが改善するまでに時間を要します。

 

高齢者の場合は、めまいにより食欲低下や胃腸障害を併発していることも多く、他愁訴で迷った時はまず脾胃を立て直すことを学んだ症例でした。

 

独立行政法人 労働者健康福祉機構 和歌山労災病院

呼吸器内科 女性専用外来 辰田仁美

http://www.wakayamah.johas.go.jp/gairai/senmon/josei.html

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