女性外来の診察室から

No.27 より理想の女性医療を目指して (東京都桜医院)

今回は東京都桜医院 院長、柴田美奈子先生の投稿です。

NAHW東京支部の企画運営委員を務めております柴田です。

 

私はこれまで、公立病院の女性専用外来、民間病院の女性外来、大手デパートの中の女性健康相談クリニック、都内の女性漢方クリニックなど、さまざまな形態の「女性医療」の現場で診療をして参りました。

それぞれの医療機関にその特徴があり、また良さがあり、これら数々の経験が、私の医師スキルを育んでくれた事に心から感謝しています。

 

そしていよいよ、今年の春、私が考える「より理想の女性医療」の場として、新たに女性内科のクリニックを、都内にオープン致しましたので、今回はそのことについてご報告させてください。

 

診療内容といたしましては、従来の一般内科の診療に加え、女性ホルモンに関係した女性ならではの疾患、そして生活習慣病などの食や生活療法が特に重要視される疾患を中心に、診療しております。

 

女性ホルモンに関係した疾患としましては、更年期障害や閉経後の骨粗鬆症・高脂血症、月経前症候群、月経時偏頭痛、産後の体調不良などが具体的な疾患名としてあげられますが、これまでの経験から「女性外来」と呼ばれる診療科には、単純に疾患ごとでは括れないようなご相談内容が多く、多岐にわたる症状と複雑な背景が絡んでいることが多いことを実感しておりましたので、診療所を造るにあたり、まずは患者さまお一人お一人が安心し落ち着いて医師の診察を受けられる環境作りから考えました。

 

― 桜医院の取り組み ―

プライバシーと清潔感を重視する

その取り組みの第一として、診察室はカーテンなどで仕切るといった単純なつくりではなく、きちんと四方が壁で囲まれた完全個室であること。

またそれだけに留まらず、診察室の壁には防音設備を取り入れ、待合室から診察室まで、ある程度距離を作ることで、診察室での会話が外に漏れないようにする物理環境に配慮しました。

さらには、患者さまが受付診察お会計が済むまでの順路では、あえてお名前ではお呼びせず、すべて番号札を用いてご案内することで、他の患者さまにお名前が知られないようにする工夫など、プライバシーを守ることを重視しました。

 

また、医療機関として十分に衛生面にも配慮するため、入り口には滅菌スリッパを用意し、院内は土足厳禁としました。

空気清浄機能を備えた人工の観葉植物以外は余計な装飾物など一切置かず、白い壁と、あえて汚れの目立つ床材を使用して、こまめにスタッフにお掃除を心がけてもらうよう徹底しました。

 

 

お薬に頼るばかりでない患者の自己管理力を高める取り組み

このほか、新クリニック設立の大きな特徴として、しっかりと運動指導ができる運動療法専用ルームを備えました。

病気の治癒そして健康管理には、お薬や医師主導の治療ばかりでなく、患者さまご本人が積極的に治ろうとする意志や行動力をもっていただくことが肝要です。

なかでも、医師の監督下において、患者さま一人一人が自分にあった適度な運動の習慣をもっていただくことが、とても重要であることを、私は以前から強く実感し、その必要性を診療の合間合間に、患者さまにもお話しさせていただいてきましたが、なかなか普通の医療機関では、十分な運動療法の指導が出来ず、自分の理想とする医療の限界を常に感じてきました。

 

新クリニックでは、諦めかけていたこの部分にあえて積極的に取り組むことを最初から考慮し、内装レイアウトを考案、また実力・実績ともに信頼出来る健康運動指導士を、クリニックのスタッフとして迎えいれました。

健康運動指導士という資格は、まだ出来て間もない国家資格であり、私自身も、まだ手探りで診療に取り入れることを進めている段階ですが、経験を積み重ね、ゆくゆくは、この取り組みの在り方や、きちんとした医学的エビデンスを、当院から全国の医療機関に向けて発信していきたいと考えています。

  

診療科を越えてオーダーメイド治療をする

私は内科医師で、大学病院では内分泌研究室に所属しておりましたので、女性ホルモンに関する問題を診ることには、何ら抵抗がなく女性医療を始めましたが、始めてみて直ぐの頃から、女性の身体のお悩みには、漢方が大変有効であることに気づかされました。

またそれまでは婦人科医師だけにお任せし、私たち内科医師が扱うことはためらいがちとなっていた、ホルモン剤(ホルモン補充療法、低用量ピルなど)のことも、より詳しく知識を深める必要があることを実感してきました。医療機関によっては、診療科の垣根を越えることが難しい場合や、それ以外の様々な事情から制限がかかり、扱える漢方が限られる、OCは一切処方出来ない、といった場合もたびたびありましたが、本来なら、

一つの医療機関で、個々の患者さまに一番あった「適切なオーダーメイド治療」が出来ることが理想です。新クリニックでは、従来の内科治療の枠にとらわれず、積極的な漢方処方の導入、ホルモン剤の処方、運動指導、そして乳がん・子宮がん・歯科検診の推進など、女性の健康問題に幅広くまた縦に長く取り組める診療スタイルを心掛けています。

 

念願の和温療法の導入

また、当会理事長の天野恵子医師から「和温療法」*1の効能・有効性については、たびたびお話しをうかがっていましたので、自分が勤める医療機関に和温療法を取り入れたいというのは、何年も前からの私の強い願いでした。

それは、女性医療を行うにあたって、医療の限界を感じる多くの場面において、和温療法が有効かつ唯一の希望であるという事を、私は理解していたからです。

運動療法はもちろん大事ですが、患者さまの病態によっては、心臓や関節に問題があって、運動療法を取り入れることが出来ない段階の方もたくさんおられます。そんな病状の患者さまでも、和温療法でなら、運動と同じような「全身の血流を改善する」ことが出来る。これは本当に画期的な事だと思っています。

 

広報が十分でないためか、当院にはまだ、和温療法を目的に来院される患者さまはおられず、大変残念に思っておりますが、和温療法を繰り返し体験した当院のスタッフの中には、月経痛が著しく改善した者や、冷え性による不妊の改善に和温療法が役立ったことを実感した者もおります。

私はこの治療法が、まだエビデンスの確立されていない疾患においても、その改善や緩和に役立つのではないかと、未知の可能性を秘めた治療法として大いに期待を持っています。

 先の設備環境の話しともリンクしますが、和温療法が必要な患者さまのことを考え、車椅子でも入れる完全バリアフリーの建物を、新クリニックの場所選びの最重要ポイントとしたことは言うまでもありません。

 

小さなクリニックならではの女性医療のニーズ

現在、開業から3ヶ月が経過しておりますが、上記以外にも、女性医療のニーズの広さは、これまでの経験の実感以上に、感じる場面に遭遇しております。

 「こちらを受診するまでがん検診を受けようと真剣に考えた事がなかった。」「膀胱炎になった時も相談が出来る場所が出来て良かった。」

「運動指導を受けたら、長年の原因不明の腰痛が改善した。」

 など、あまり最初は想定していなかった部分でも反響のお声を聴くことがあります。

 

 

女性外来や女性医療という言葉が巷で普通に聞かれるようになって、既に15年以上が経過していますが、まだまだ私たち女性外来を担当する医師は、その役目を社会の中で十分果たし切れていないのかもしれません。

これからますます努力してまいりたいと思います。

 

*1 和温療法®waon therapy)は、元鹿児島大学の鄭教授によって研究開発された、医療用乾式サウナによる治療法です。

慢性心不全や閉塞性動脈硬化症についてエビデンスが確立されています。

 

                          201691日 桜医院 院長 柴田美奈子

                     桜医院 : http://www.sakura-iin.com

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