女性外来の診察室から

No.1 日本初の女性外来開設のヒントとなった「原因不明の胸痛」の診察

私が40歳の時、野村総研の総合職としてキャリア人生を邁進している日比谷高校時代の友人が訪ねてきました。
「毎日、胸の痛みがあり、会社の産業医に相談した。取りあえずニトログリセリンを処方されたけれど、飲むと頭痛がするだけで、胸痛の方にはさっぱり効かない。」
ということでした。
胸の写真、心電図、心エコー、核医学検査とやりましたが、原因はよくわかりませんでした。

彼女は、40歳にして人材派遣会社の社長に内定したため、野村総研での仕事の後、毎日ビジネススクールに通っているとのことでした。取りあえず、「身体に無理が来ているのではないかしら、少し休養したら」と言いました。その後、人材派遣会社の社長となることを辞退し、ビジネススクールへの通学もやめたところ、胸痛は次第になくなって行きました。
「彼女の胸痛は一体何だったのだろう」とずっと頭のどこかに引っかかっているものがありましたが、その後、これが女性に特有な更年期前後の狭心症「微小血管狭心症」であることを知りました。「どうも狭心症には女性特有な狭心症があるらしい。他にも男女で病気の成り立ちが違う疾患があるかもしれない」と思ったことが、病気や健康における男女差を研究する学問「性差医学」に私を向かわせたきっかけです。
2001年5月、病気や健康を考える時に、男女差をきちんと考慮して診療を行う「女性外来」が、全国で初めて鹿児島大学に立ちあがりました。2001年9月には千葉県知事堂本暁子氏の肝いりで、千葉県立東金病院に女性外来が立ち上がりました。この2つの女性外来への女性の反響にはすさまじいものがありました。あっという間に新患予約が数百名という状態となり、女性たちが現在の医療体制に満足していないことが大きく浮彫りされたのです。
それから13年たった現在2014年、女性外来は心ある医師たちの頑張りで少しずつ認知されてきています。私自身は現在千葉県松戸市にあります松戸市立病院と埼玉県新座市の静風荘病院で女性外来を行っていますが、まだまだ一般には性差をきちんと考慮した医療が実践されているとは思えない現状です。「女性外来の診察室から」は、私が診察室で遭遇した事例を中心に私の想いを皆さんにお伝えしたいと思います。

埼玉県新座市 静風荘病院特別顧問 天野惠子

Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.