2018.02.20
あたらしい家族
熊本県 春日クリニック院長 清田真由美先生の投稿です。
その日、4月22日の予定日よりも10日あまり早く生後30日のシバの子犬がやってきた。
大学を卒業し帰熊する次女の「犬を飼いたい」という長年の夢を実現するために夫が半年も前から手配していたのである。
気の進まない私に「そういうお前が一番可愛がるから」と話はとんとんと進み、早くから犬小屋も準備して万全の受け入れ態勢であった。
実は私は、犬が大の苦手である。
幼いころ、近所に飼われていた犬が飛び掛ってくる気がして、反射的に走って逃げた。しかし、その犬の首輪は繋がれておらず延々と追いかけてきた。
“犬は逃げるから、おってくるのよ”、と後で教えられたが、ときすでに遅し。
私の脳には犬=怖いが、その時しっかりと刻み込まれた。
中2の時「野犬が集団で小動物を襲う被害がでている」と近所で話があっていた。
怖いなと思っていたら、夕方暗くなった帰り道に、立てば人の丈ほどある大きな野犬と出くわした。後ろには、あと2匹いた。
怖くて、腰が抜けて足が一歩も前に進まない。絶体絶命。
その時、自分でもどこから出てくるかわからないような低い声で「ウー、ワン」とうなった。しばらく時間が止まった気がした。
3匹の犬は、こともなげに脇を通りすぎていった。気を取り直し、走らない、走らないと呪文のように唱えながら、ゆっくりとその場を離れたが、家に着くまで生きた心地はしなかった。
5月生まれの次女は、名前も「メイ」と決め、暇さえあれば、「犬ってこんなに可愛のよ」と目を輝かせながら、私の洗脳に努めていた。
いよいよ、ご対面。
予想したよりもはるかに小さく、まだ大人の掌に軽く乗るくらいであった。
怖がってかぶるぶる震えているのは私ではなくメイちゃん。
まだ、生まれたばかりでママや兄弟と別れて寂しいのだろう、ゲージの中でママのにおいのするタオルに顔を突っ込んでじっとしている。
寂しがらないようにラジオを一晩中つけてあげてください、といわれたが、一人で大丈夫だろうか?
一晩中気になっていたが、後で聞くと主人も3度ばかり夜中に見に行ったらしいい。
5月の連休は穏やかな日和でさわやかな風がここちよい。
庭にいすを二つ並べて座っていると、二人のご機嫌を伺うように交互に足元にまとわりつき、うれしそうにはしゃぎまわるメイちゃん。
すっかり我が家での生活にもなれ、あたらしい家族となった。
つぶらな瞳、ぬいぐるみのような丸々としたおしりをふりふりしながら走り回る姿。
抱き上げるとどこでもお構いなしにぺろぺろなめてくる。
ついかわいいとつぶやいてしまう。
もしかしたら、忙しい毎日の中で更年期を迎えている私のためにさりげなく主人がプレゼントしてくれたのかもしれない。
私は今間違いなく癒されている。
(今読むと少々照れますが、戌年なので、犬にちなんだ懐かしいエッセイをお届けしました。
帰熊した娘も、昨年犬を残してお嫁に行きました。時のたつのは早いものですね。)
熊本県 春日クリニック院長 清田真由美
http://www.seisinkai.or.jp/cl.html