天野理事長ブログ&スケジュール

2017.09.05

産業保健における性差の課題 その2

荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木葉子先生の投稿です。

 

「働く女性の健康」について講義をよく頼まれていました。でも、考えたら「働く男性の健康」について、というのは聞きません。いつまでも男性労働者を主流、女性労働者を傍流とする考え方のようにも感じ、女性労働のmain streamingを図らねばいけないと考えています。まさに、生物学的性差、社会文化的性差の視点で、国民全体の健康施策と職域の健康施策を考えていく時代に入ったと思います。

 

【女性労働の変遷】

女性の労働力率の変化を示します。昭和47年(1972年)から平成27年(2015年)の変化をみると、20~60歳の女性はすでに8割近くが労働者です。「働く男性の健康管理」とわざわざ言う人はいませんので、いまどき「働く女性の健康について」という題名は陳腐化しています。未婚者も増えており、日本の施策の多くが夫婦と子ども二人を標準モデルなのはすでにミスマッチです。

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 昨今、大きな問題と感じるのは、非正規雇用率の増加です。非正規労働に明確な定義はなく、直接雇用の場合は有期雇用、短時間の場合が該当し、間接雇用の場合は、派遣、委託などが非正規と考えられています。未婚時はフルタイマー、既婚者はパートというのが従来のパターンでしたが、現在は20~30代にも非正規雇用者が増えており、女性のみならず男性にも非正規化の波が広がっています。一方、働き方の多様性を考えると、非正規という名称も検討の余地があるように思います。

荒木先生2-2

 

 驚くのは男女の賃金の格差です。入社直後の正社員においては男女の差は小さくなった、との報告もありますが、山田氏の研究によれば、我が国は、タイプ一型専門職を除き、男女差は大きいことがわかります。女性労働が増えているのは、医療福祉、教育分野なのですが、たとえ専門職であっても男性の事務職平均には及ばないです。また専門職の賃金がさほど高くなく、専門職への軽視があるのも我が国の特徴です。

 女性が多い職種は賃金が下がるのか、賃金が低い職種に女性が集まりやすいのか・・・このあたりも、職業選択に、性差の刷り込みが関係している可能性は高いです。

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【健康格差・・雇用の不平等が招く健康の不平等】

 なぜ雇用が不安定だと不健康になるのでしょうか。

今までは、父親や夫が正社員であり、世帯内にいる女性は、正社員である男性の社会保障の恩恵を受けてきていました。けれども、男女とも生涯未婚率が高くなってきており、必ずしもそうした保証はなく、社会保障は個人対応を迫られています。

以下の表のように職場での各種制度の適応は、非正規社員は正社員をはるかに下回り、健康保険の種類(組合健保、協会けんぽ、国保、あるいは無保険)にも差が生じます。

最初に述べたような、産業保健職が関与するようなさまざまな施策にも触れる機会は低くなります。

20~60代の働き盛り、リプロダクティブヘルスも中年期に向けての準備段階としても重要な時期の産業保健施策に、格差が潜んでいないか気になります。

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荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木葉子

女性会社員吹き出物気にする

 

 

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