天野理事長ブログ&スケジュール

2017.08.30

産業保健における性差の課題 その1

荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木葉子先生の投稿です。

 

何科のお医者さんですか、と聞かれて、「産業医です」と答えると、「ああ、会社にいるお医者さんですね」と言ってくださる方が増えてきました。以前は、「はあ?」という反応しかなかったのですが、この30年でだいぶ市民権を得てきたように思います。

 1972年に労働安全衛生法に「産業医」が定義づけられ、1996年から産業医要件が定められ、日本医師会の認定制度が始まりました。平成26年データでは日本医師会認定産業医数は9万人を超えており、全医師の25から30%が産業医資格をもっていることになります。男女の比率はわかりませんが、緊急対応や当直がないこと、企業によっては産休や育休がとりやすく復職もしやすいこと、また臨床や研究と併行してキャリアを積むことができるので、女性医師が増えている印象があります。

【産業医の仕事の変遷】

私が経験してきた産業医の仕事の流行は有害業務など特殊なものを除くと、以下のようになります。

1.トータルヘルスプロモーション

2.過重労働対策

3.母性保護(母性健康管理指導事項連絡カード)

4.メンタルヘルス(うつ病、双極性障害、適応障害、最近では発達障害)、ストレスチェック

5.特定健康診査・健康指導、データヘルス計画、コラボヘルスなど健保との連携

6.治療と仕事の両立(がん、糖尿病、脳卒中)

7.健康経営

 

 

いずれも性差がありながら、母性以外は、性差について語られることが少ないです。

なぜ、そのようになるのか・・・を健康にかかわる法制度から見てみましょう。

 

【女性労働に関する法制度の変遷】

 

 産業医の仕事は、医学の進歩というよりも行政の動きと関連しています。医学的というよりも政治的と感じられるものも多いです。

 

女性労働者に対しては主に母性保護の観点から「保護」されてきましたが、保護規定は、能力発揮や職業選択の幅を狭くする可能性があるため、近年、「保護」と「均等あるいは労働の権利」をめぐり、さまざまな改訂が行われてきました。更に昨今では、労働力の確保という意味合いで、男女の労働および家庭責任について検討が加えられてきています。

主に女性労働に関する法律等と、その他関連する法律等(青字は労働分野に限らない国民全体に対するもの)を示しています。個人的な基準で選んでいますので、もっと重要な法律・施策がったかもしれませんが、ご容赦ください。

 

法律について細かい説明をするスペースがないのですが、一言でいうと、職域の健康管理は男性を基準として作られており、女性は母性保護規定が中心であること、メンタルヘルスは男女を含むが性差には注意が払われていないこと、最近では女性に関しては健康よりも雇用に力点が置かれていること、

国民全体の健康施策は、昨今は中高年のメタボ対策に偏っていること、最近になり、がんやメタボ関連疾患、メンタルと雇用問題の連携を図ろうとしていること、が特徴です。

 

リプロダクティブヘルス、セクシャルヘルスに関しては、法制度においてはほとんど何も語られていません。 

主に女性労働に関する法律等

その他関連する法律等

1911 (M44)

工場法交付  女性労働時間は12時間

 

1929 (S4)

児童・女性の深夜労働禁止

 

1947 (S22)

労働基準法制定 女性の労働時間は8時間、時間外労働の制限、深夜業の原則禁止、危険業務の就業制限、坑内労働の禁止、産前産後休暇、育児時間の確保、生理休暇

 

1959 (S34)

 

新国民健康保険法施行

1965 (S40)

 

母子保健法制定

1972 (S47)

勤労婦人福祉法 妊娠中及び出産後の健康管理に関する配慮、育児休業の実施が事業主の努力義務

労働安全衛生法(産業医記載)

労働安全衛生規則(健康診断項目記載)

1978~(S53)

 

第1次国民健康づくり対策

1982 (S58)

 

老人保健法制定

1984 (S60)

女性差別撤廃条約批准

 

1985 (S61)

男女雇用機会均等法および改正労働基準法施行 産前休暇8週間、多胎妊娠の産前休暇10週間、労働者派遣法施行

 

1988 (S63)~

 

第2次国民健康づくり対策

THP指針

1992 (H4)

育児休業法施行

 

1993 (H5)

パートタイム労働法施行

 

1995 (H7)

育児休業給付開始(改正雇用保険法施行)

ILO「家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約」(第156号)批准、育児・介護休業法の成立(育児休業法改正)

 

1998 (H10)

改正男女雇用機会均等法 母性保護措置等 施行

 

1999 (H11)

改正男女雇用機会均等法、改正労働基準法(女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規制解消・多胎妊娠産前休暇14週間)、改正育児・介護休業法の全面施行(育児または介護を行う労働者の深夜業制限)、男女共同参画基本法公布・施行

改正労働者派遣法施行(派遣先にも男女雇用機会均等法の措置が義務づけられる)

 

2000 (H12)

女性少年室は労働局雇用均等室に改名

21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)策定

介護保険制度

2001 (H13)

厚生労働省発足、雇用機会・児童家庭局発足、改正育児・介護休業法成立、一部施行(育児休業等の申し出または取得を理由とする不利益取り扱いの禁止)

 

2002 (H14)

改正育児・介護休業法全面施行

VDTガイドライン

2003 (H15)

次世代育成支援対策推進法案提出(企業行動計画、地方公共団体行動計画など)

少子化社会対策基本法案提出 衆議院通過

健康増進法

健康づくりのための睡眠指針

2004 (H16)

 

第3次対がん10か年総合戦略

2005 (H17)

次世代育成支援対策推進法 くるみん認定

禁煙ガイドライン

がん対策推進アクションプラン2005

2006 (H18)

 

過重労働による健康障害防止対策

健康づくりのための運動基準2006

自殺対策基本法

がん対策基本法

2007 (H19)

改正男女雇用機会均等法および改正労働基準法の全面施行。

女性の坑内労働の原則禁止を改正。「仕事と生活の調和憲章」

 

2008 (H20)

労働契約法

メタボリックシンドロームに対する特定健康診査・健康指導

定期健康診断項目の改正

2010 (H22)

新成長戦略「日本再生の基本戦略」第3次男女共同参画基本計画・2020年までに指導的地位女性を30%に。

 

2011 (H23)

 

スマート・ライフ・プロジェクト

2012 (H24)

母性保護のための「女性労働基準規則」を改正~生殖機能などに有害な物質が発散する場所での女性の就業を禁止、

「なでしこ銘柄」の発表

労働契約法改正

がん対策推進基本計画

介護保険法改正

2013 (H25)

 

21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21(第二次)策定

「国民の健康寿命が延伸する社会」に向けた予防・健康管理に関する取組の推進」

持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律

健康づくりのための身体活動基準2013

第12次労働災害防止計画

職場における腰痛予防対策指針

2014 (H26)

「次世代育成支援対策法」(平成27年までの時限立法だったが10年延長)

くるみん認定に加えプラチナくるみん認定が開始

ひとり親家族支援強化、「母子および寡婦福祉法」から「母子及び父子並びに寡婦福祉法」に改名

データヘルス計画

健康づくりのための睡眠指針2014

2015 (H27)

「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」 (女性活躍推進法)が成立

第4次男女共同参画基本計画を閣議決定

食事摂取基準(2015年版)

職場の受動喫煙防止対策

THP指針改正

ストレスチェック制度

2016 (H28)

育児介護休業法改正(施行はH29より)

 

治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン

 

 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木葉子

女性会社員ストレスブルー

 

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