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2017.07.07

スウェーデンの医療 その1

今回は、竹尾 愛理先生の投稿です。

 

スウェーデンの医療について、まず運営制度と財源、自己負担について述べたいと思います。

 

社会保障を含めたスウェーデンの社会制度全体の基礎に流れている共通の思想は「平等」であり1、スウェーデン保健医療サービス法 (1982) は、次のように定めています。

「保健医療サービスは、国民全体が健康を確保し、医療が平等に提供されるようにすることを目的とする。医療の提供にあたっては、すべての国民の平等と個人の尊厳が尊重されなければならない。保健医療は、それをもっとも必要とする人に優先的に与えられなければならない2。」

患者負担が少なく、地方分権が進んでいることと、介護や予防の制度が発達しており、在宅医療が多いことなどが特徴的です。

 

(1)  医療は主にランスティング()により運営されています。

スウェーデンにおける医療は保険医療制ではなく、税金による公共事業として運営されています1

スウェーデンの医療は、国、ランスティング(全スウェーデンに20存在し、県のような規模ですが、主に医療を施行するために設けられた行政区分)と一つの地方自治体、そしてコミューン(市町村に当たるが強い自治権を持つ)が運営責任を担っています。

ランスティングは第一次医療全般と病院での公共健康問題、及び予防医療を管理運営しています3

その地区の選挙で選ばれた運営委員会が、管理運営に当たっており、各ランスティングにおいてはかなり自由な裁量が認められています。

逆にいうとランスティングの主な業務は医療であり、ランスティングの90%の歳出は医療費です。

これに対し介護、長期精神医療、老人医療及び身体障害者医療は、各290のコミューン(市町村にあたるが強い自治権を持つ)にその運営が任されています。

更に国は大きく6つの医療地区で構成され、それぞれ人口が100万人から200万人程度で少なくとも一つの大学病院を地域内に有しています。

この地区内で高度な専門医療も受けられるように考慮されています。

通常、この地方社会保険局はさらに細かい地区に分けられており、保険医療制度はかなり地方分散化が進んでいます4

 

緊急性を要しない医療を受ける場合、一般的にはまず一次医療機関である地区診療所(vårdcentral)に連絡をして予約を取り、家庭医・一般医(allmanläkare)を受診、必要があれば紹介状を書いてもらい、より専門性の高いランスティングの病院や地域病院(大学病院)を受診したり、外部医療機関で検査を受けることになります。 

 

(2)  医療財源 スウェーデンの医療は税金により賄われています。

スウェーデンでは医療を目的とした社会保険料は徴収されていません。

スウェーデンの医療財源を構成する税金はどのように徴収されているのでしょうか?

税金については、地方所得税は、約30(年収が約2万クローナ以上ある場合)をランスティングに支払っており、社会保険料(両親手当、傷病手当のため、医療ではない)雇用者31.4%、雇用者所得7%の負担となっています。

更に高所得の国民9(65歳以下で年収452,110クローネ以上, 円高を鑑み参考値として1スウェーデンクローネ17円換算で年収約769万円)が、国に累進制(20%から25)の所得税を支払っています5

スウェーデンでは日本と比較して、もともとの所得の差が小さいこと、医療費が安価であること、児童手当、両親手当、教育無料、安価な保育、住宅手当などが充足しており国民に税が還元されること、また累進性の税率が高く高所得者向けの所得控除が少ないことから、所得における再分配の有効性が高いのです。

スウェーデンにおける可処分所得の格差は世界でも2番目に小さいのですが、それはそもそも総所得の格差がそれ程大きくない上に、社会保障給付によって大きく所得格差が是正されるからです1

また何よりもオンブスマンで知られるように政治、経済の透明性が高いことが福祉への配分を確保しています。

一クローナの税金の使い道も公開されており、政治経済的な決定がなされた理由と過程やすべての公的メールを一般の人が見ることができます。

 

3)低い上限の医療自己負担、小児と超高齢者医療は無料 

医療費の個人負担は、その他のOECD加盟国の平均値よりかなり低く、従って、医療費の負担は貧富の差に比例しています。

ランスティングが決定しますが、外来診療は年間1.100クローネ(一クローネ17円で換算して参考値18,700円)、入院は一日100クローネ1.700円、薬剤費は1.100クローネになったところから割引になり、年間2.200クローネ(37,400円)以上を払うことはありません。

外来診療、薬剤費を含めて参考値として56,100円が外来通院の一年当たりの上限となります。

外来受診は、地区診療所の受診が一回200クローネなど規定されています。

18歳未満の子供の受診料は無料、処方薬は以前は上限ありの有料でしたが社会民主党と環境党の政権下で2016年に小児の処方薬も無料になりました。

18歳未満の小児は救急医療を除いて外来、入院ともに無料です。

85歳以上の外来受診、訪問診療も無料です6

歯科医療については大人は高額ですが、小児は無料です。

 

1.      飯野靖四 スウェーデンの社会保障と所得再分配 海外社会保障研究 No159  2007 summer

2.      http://ferenda.lagen.nu/1982:763

3.      松田亮三「普遍主義的医療制度における公私混合供給の展開-スウェーデンにおける患者選択制、海外社会保障研究 No178、国立社会保障・人口問題研究所、2012.3

4.      社会保障・税制抜本改革に関する調査 (平成22年度) 報 告 書 三菱総合研究所 2011.3

5.      https://www.skatteverket.se

6.      https://www.1177.se/Norrbotten/?ar=True

 

医師 竹尾 愛理

スウェーデンの街並み

 

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