天野理事長ブログ&スケジュール

2017.03.29

小楢の戦略 

社会医療法人財団 大樹会 総合病院 回生病院
女性漢方外来/ペインクリニック 野萱純子先生の投稿です。

 

工房の小さな庭に、小楢が二本植わっています。十年前に拾ったどんぐりが、今では二階の屋根をこえて庭で一番のノッポになりました。2月はじめから硬い芽が少しずつ動き出しています。

パートナーの漆作家もそろそろ活動開始です。

 

漆の仕事は、ウルシが乾きやすい季節、気温が高めで湿度もあるときには忙しく、寒い時期には実働が少ないため、季節労働の一面があります。

作品を出品する展覧会も春から秋なので、11月小楢の葉が枯れるころ、その年最後の作品を展覧会に送り出すと同時に活動ペースを落とします。

 

漆芸のなかでも特に手間のかかる彫漆、塗り重ねた漆の層への彫刻という技法で制作します。蒔絵よりも古い技法ですが、江戸時代高松藩主が保護したことから、香川県は彫漆を専門とする漆芸家が多い地域なのです。

 

漆は一回にぬれる厚さが40ミクロン、120回で5ミリです。

この5ミリの漆の層を作るのに、200日程度かかります。そしてこの数ミリの厚さの中に色調を潜ませて、小刀で出したい色の層までほってゆくわけですが、ひとつ間違えばその色層は失われてしまいます。

塗り、研ぎ、彫りといった技術をクリアしてはじめて、自分の作りたい造形に手が届くので、ビギナーズラックや偶然の面白さとは無縁。思いもよらぬ効果というのはまずあり得ない世界、綿密な計算が必要です。

大きな公募展に出す作品は、実働が数ヶ月ですが、それ以上に構想を練る時間が必要なのです。

 

庭の小楢は、数年前から一年に三度枝を伸ばすようになりました。

最初の早春の柔らかい葉は幼虫のごちそうらしく、伸びるそばから食べられて穴だらけになってしまいますが、それをものともせず、幼虫の巣立った後、ゆうゆうと伸びてゆきます。そして、夏の暑さを乗り切った秋にも30センチ近く新しい枝が伸び、ほかの部分が枯れた後きれいな緑を残します。

 

なんて都合のよいやり方だろうと思っていたのですが、この三段階成長を支えているのは、地下水脈まで根が届いていることだと聞きました。

芽生えの時から、まずどんどん垂直に根を伸ばし、水脈に達して初めて上への成長に転じるのだそうです。

 

小楢と漆の戦略はよく似ているなと思います。どちらも私には真似できそうにもないけれど、人生の折々、たとえそれが秋を迎えた頃であっても枝を伸ばしてゆけるという実例が、窓の外から見守ってくれています。

 

社会医療法人財団 大樹会 総合病院 回生病院

http://www.kaisei.or.jp/

女性漢方外来/ペインクリニック  野萱純子

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