天野理事長ブログ&スケジュール

2017.01.24

「共依存」のトラップから抜け出すために。

 

私が女性外来でボランティア・カウンセリングをおこなっていた3年間において、最も学びとなったのは「共依存」の現実について様々に知る機会を得たことだったと思います。

 

女性外来に訪れる女性患者さんには、単独でいらっしゃる方と、付き添いつきでいらっしゃる方がいます。単独来院が主流でしたが、付き添い同行来院も少なくはありませんでした。付き添いの方の患者さんからみた立場は、夫、母親、娘または息子、大体この3パターンでした。多かったのは、夫、次に母親、のパターンです。

 

付き添い同行の方については、ご本人は体調が悪く思考がまとまらないこともあったからとは思いますが、同行の方とお話しするほうが、むしろ疾患の背景にある問題が早く解決するように思われました。

 

私はボランティア・カウンセリングをおこないつつも、その途中から、患者様と本格的に向き合いたいという気持ちがわき、思い立ったが吉日と心理カウンセラーの資格を2つ、2年かけて取得しました。

その中で、なるほどやはりそうか、と最も思わされた講義の内容が「共依存Co-dependency」についての解説でした。

もともと、この「共依存」という言葉は医療の立場から発生した言葉ではなく、看護の立場から発生した言葉だそうです。患者様を見守るケアの立場での「気づき」から生まれた概念です。

この「共依存」という概念が、最初はアルコール依存症患者の闘病を看護する現場から生まれた言葉であることは、カウンセリングの世界では大変有名な話です。

共依存は、Co-alcoholicと呼ばれる言葉から発展した概念で、アルコール依存症以外の依存症についても見られる事象として、広く使用されるようになりました。

 

以下は私がテキストから学んだアルコール依存症における「共依存」関係の説明です。

 

重度のアルコール依存患者は「患者を支えるお金、支える人、周りの友人、その全てを失わないと本当の治療は始まらない」と言われるほど深刻な依存症患者です。

怪我などの一般的な疾患であるならば、これは全く逆の話ですよね。

お金があり、支えてくれる人や友人の励ましの言葉など頼れるものが多くあったほうが、治療の予後がよいと考えるのが普通でしょう。

 

ところが、入退院を繰り返す重度のアルコール患者の本格的な社会復帰をサポートしようとするケアの現場において、残念ながら「患者の家族が治療の進展のネックになっている」との声があがるようになりました。そして、沢山のアルコール依存患者の症例から「共依存」の恐ろしさが明るみにでるようになりました。

 

重度のアルコール依存者の男性には、セットのように、彼の恋人や妻や母というCo-alcoholic(アルコール依存症の仲間)の女性が共存しているケースが多いのです。

そして彼女たちは共通して「私がいないと彼は生きていけないのです。」と強く訴えます。そして、彼の起こしたトラブルの対処に毎日追われ、しかも彼から暴力などの直接被害を受け、ボロボロになってゆきます。

 

患者によりそう女性は自己犠牲的で献身的な思いを主張するのですが、客観的に見ると「彼とともに落ちてゆく」ことを志向しているようにしか見えないという問題があります。

例えば、夫が飲酒後に大暴れして器物破損や傷害沙汰になったとすろと、彼女はお詫びや賠償に彼に代わって奔走します。世間からは「奥さんかわいそうに。旦那さんのために大変なんだね。よく耐えるよね。」などと哀れみの言葉をかけられます。

実はCo-alcoholicはここに「自分の素敵さ・生きがい」を見出しています。ですので、彼が起こした問題の後始末に奔走する一方で、彼から殴られても蹴られても、絶対お酒を渡さない、お金を与えない、といった本来の依存症の回復に向けた行動には簡単に拒否反応を示します。

パートナーの暴力が怖いから私にはいえません、などと主張します。

 

この「尻拭い行動」にのみ熱意をもやし、実際に依存患者本人が自立する道を阻む人を精神保健の分野では「イネーブラーEnabler」といいます(ポジティブな使い方とネガティブな使い方がある言葉ですが、この場合はネガティブな使い方です)。

 

イネーブラーがおこなう行動をイネーブリングEnablingとよび、これはある個人の問題解決を第三者が代わりに行ってしまうことで、結果的にその個人の精神的な成長や問題解決能力を奪う、問題行動を増悪させる行動をいいます。

残念ながらこのような行動は献身的でもなんでもなく、そういうことをすることに快感を覚える趣味嗜好に過ぎません。しかも、相手の症状を増悪させる加害性の高い支配行動のひとつともいわれます。

 

ご参考までに、以下は重度のアルコール依存症の妻によく見られるイネーブリング行動だそうです。

 

・夫の代わりに被害者(職場・友人・知人・行きずりの被害者)に謝りにいく(本人が謝るべき)

・夫の代わりに弁償する(夫が自分でなんとか金策等するべき)

・誰かが自宅に訪ねて来たときに夫の依存症がばれない様に隠蔽工作をする(ばれなければいいし隠してもらえるし、と飲酒を助長させる)

・夫がトラブルを起こした際に夫に不利な行動について証言を偽装する(同上)

 

イネーブリングは、お決まりのコースとして「特定の誰かに頼らなければ生きてゆけない個人」を作り出し、ともに破滅に向かいます。

 

さて、私はこの共依存を学んで、カウンセリングでお話をさせて頂いた同行者つきの患者様たちに感じていた違和感の原因が、よりはっきりしたと思いました。

 

・娘さんが1ヶ月にカードで使った1000万近い金額を代わりに支払いながらも、それがうつ病からくるわがままで大変です、と説明してしまう母親。

 ・親は寝たきりの難病の娘と思っていて、遠隔地から来院・入院させたにも関わらず、看護士からみると「寝たきりなんてありえないでしょう」という娘。

 

また、イネーブラー候補生はこういうタイプであろう、という方の問題行動も見られました。

 

・客観的に子どもたちは自立しているのに、「心配で、心配で、鬱陶しいと思われても子どもに大丈夫か電話してしまう」心身不調を訴える母親。

 ・息子の妻にうつ病に陥らせるほどの罵倒連絡をする義理の母親。体調不良の妻に付き添ってきた夫は自分の母親は自分に対しとても優しく寛容なため、妻が義理の母を毛嫌いして話を盛っていると思っていた。そこで妻はある日、夫が不在ということにして義理の母の電話を受ける。手ぶらフォンから流れてくる義理の母の妻への言葉は息子の想像を絶するひどい内容であった。

 

これらは全て、依存症患者または被害者の心身不調を治療する前に、まずイネーブラーによる特定の愛着相手への依存(執着)行動をなんとかしなければいけない、という事例です。

 

カウンセリングにおいて、依存症の一部の患者は、イネーブラーによってモンスター化してしまったのだ、と思うことが少なくありませんでした。

 

共依存関係には、一方が一方に暴力や暴言を振るうなどの行動が見られます。イネーブラーが本来は望んでいない支配関係が生じます。

 

ここからは治療法ですが、

・暴力等での支配側には、イネーブラーがいなくても一人で生きていかねばならないことを気づかせることが不可欠、かつ有効な治療法となります。そのためにはイネーブラーを引き離す(イネーブラーがイネーブラーであることから降りる)ことが必要です。 

・イネーブラーとなっている人は、本当に自分が望んでいるのはこのような関係による相手への援助などではないのではないか、私は援助という名の下、実は違うことを目的として生きてしまっていないか・・・そんな風に人生を見つめなおしていただく必要があります。

 

いずれにしても、「共依存」のトラップにはまらないためには、まずはどちらもしっかり「1人で生きる」覚悟を持たなければなりません。

一見、大変難しいことのようですが、1人で生きる力を身につけようとする人間は実に魅力的なのです。心配しなくても、1人でも生きてゆける力を見につけた人を、周囲が長く放置することなどないのです。

 

誰かを軸にしてその人に尽くすことだけに自らの存在意義を感じる人(イネーブラー)、空虚な中身からくる自信のなさから薬や酒などの逃避行動によるマウンティング行為を繰り返す依存者、その互いを魅力的に感じるのは、結局その2人だけ、です。

 

共依存は「究極の孤独状態」を生み出す非常に危険な関係であることを、多くの方に気がついてほしいと切に思います。

 

㈱ニッセイ基礎研究所 生活研究部研究員

JADP上級心理カウンセラー 天野 馨南子

お酒飲む男女

 

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