2016.07.14
医療報道のあり方についての内科医の雑感
富山市 内藤内科クリニック院長 内藤毅郎先生の投稿です。
先月、歌舞伎役者の市川海老蔵さんの記者会見がテレビで流れていた。
奥様が乳癌とのことで辛そうな話ぶりが痛々しかったのだが、記者の質問があまりに具体的で、「そこまで答えなくてはいけないのか」と私はとても不愉快だった。
また最近は診察室で「私の飲んでいる薬が週刊誌に飲んではいけないと書いてある」という相談を頻繁に受け、「またその話ですか・・・」と辟易としている。
医師として以前から感じていたことだが、日本の健康番組や医療報道はあまりに商業主義的で、もう少しメディアとしての「見識」はないのかと思う。
国民の不安や関心を餌に視聴率が稼げるということらしく健康番組がとても多い。
芸能人の人間ドックの様子を放映したり、マスコミご用達の「白衣を着たタレントたち」がコメントしたり。こういう番組がある程度、知識の普及に効果があることも否定しないが、それでもやはり弊害が大きいと思う。
医療情報というものは医療が不確実性を孕んでいることからなかなか複雑で、素人に誤解のないように伝えることは非常に難しい。
さらには個体差という問題もあるので、不特定多数の人が観るTV番組では一般的なことは言えても、個人個人にあてはまるかどうかの判断はやはり医師に相談するほかない。そういうあたりまえの原則をテレビ関係者がきちんと認識しているとは思えない。
欧州では娯楽番組として健康問題を扱うことは少なく、新型インフルエンザ流行時も敢えてトップニュースにしないなど極めて慎重な報道姿勢であったという。
そういうところに見識を感じ取ることができる。
日本でも今後は
①話題性のみを追わず全体像が理解できる報道
②個人差やプライバシーに配慮した情報提供
③医療報道の社会的影響に対する意識
を報道機関には求めたい。
医療関係者もこうした問題を座視せずどんどん意見を言うべきであろう。
商業主義的風潮がなにより優先されている現状は国民にとって有益ではない。
内藤内科クリニック院長 内藤毅郎