天野理事長ブログ&スケジュール

2016.07.07

嫁としての介護体験を楽しむ~尊重すること、寄り添うこと、客観性を保つこと~

岐阜県総合医療センター 女性外来 客員部長 廣瀬 玲子先生の投稿です。

 

1年半余り前に夫が急性大動脈解離を発症しましたが、お蔭さまで術後は順調で、開業内科医師の仕事に復職できました。ご存知の皆様にはご心配をおかけしました。ありがとうございました。

 

その流れで、女性外来は縮小になりましたが、私は、夫の仕事の一部の地域医療を担うことができ、また、すぐ近くに住む現在90歳と88歳の義父母との関わりを増やすべき時期でもあり、女性外来に携わらせていただいてきた医師として、貴重な学びをいただいております。

 

息子の家族は忙しいからと、義父母は自分たちの自営の仕事を続けながら、胃がん・脳梗塞・大動脈弁狭窄症のための大動脈弁置換術・間質性膀胱炎・骨折など、数々の入院も乗り越えながら、そのたびに回復し二人で暮らしております。

 

両親の様々な機能低下の現実は、実の息子や娘には受け入れがたく多くのストレスを生むことはよくあるようです。

私の夫も、例外ではないようです。

「認知症」であっても、機能は徐々に失われるのであって、日常生活はすぐにそこなわれるわけではありません。現状を観察して必要最小限の支援で、それまでの生活はあるところまでは可能です。その日の体調によっての変動もみられます。人として尊重されているかどうかはよく伝わります。

 

毎日ほんの少しだけ生活の場を2~3度見に行くことは、入院患者さんを回診するのと同じく、とても有用であると感じています。

嫁は客観視ができます。

イギリスのテレビドラマの「シャーロック」のように、ちょっと観察してたくさんの情報を、カシャ・カシャ(機械音)と頭の中に取り入れます。

 

「今日の言動がおかしいのは、どうもお昼ご飯をろくに食べていないこともあるだろう」

「最近よく転倒するのは、ズボンがしっかりはけていないので、裾をかかとで踏んでいるからだ、裾にゴムをいれよう」

「最近下痢が多い(洗濯物その他で確認)のは、古いごはんがよくない臭いであるし、もったいないと、食事の衛生が十分でないからだな」

「味噌汁が作れるか」「ご飯が炊けるか」「洗濯物を必ずとり入れているか」

「玄関のカギをかけ忘れていないか」「鍋の焦げ具合」「お皿の割れる頻度」・・・

 

叱ることも強く注意することもなく受け入れて「観察」しますとプライドをあまり傷つけずに済み、傾向がわかり対応策も明らかになります。

 

「見守る」というより「観察」のほうが、自分の気持ちが緊張しないように思います。

嫁姑の関係は、実家や近所そして患者さんからもたくさん教えていただいてきました。

 

義父母から私は、医師としての仕事をする上で、たくさん家事育児などの支援をいただき、愛も深くいただいてきました。しかし、とてもこわい!気難しい!人たちなのです。

あまりぶつかって憎しみ合った記憶を作ってはいけないと、ずっと逃げてばかりでした。

 

今、おそるおそる近づくしかなくて、近づいています。

時に、幼年時代の悔しかった思いなど繰り返し話してくださる瞬間があります。なぜ、気難しい人になったのか、その人の幼年時代に気持ちを設定します。ちょっとわかる気もします。

 

紛失物・物忘れ・同じ行動を繰り返す・日々できないことがゆっくり増える・体力の低下などを、「これまでよくがんばってこられた」と思って受け入れます(と決めます)。

尊重して接すると、そのところは雰囲気として記憶してくださいます。

信頼できる人、面倒を一応最低限見てくれる人であるなど。いらいらで接したら、めちゃめちゃです。ご機嫌ななめなときは、安全を確認した上で離れます。私は疲れたら無理に顔を出さずにちょっと失礼して、夫など他の家族や介護職の方におまかせします。

 

完全同居だったら無理であったと思います。今、近づけているのは、自然の流れ、計画したものでないけれど、流れに任せてちょうどよいと思うようになりました。

調子によっては、私のことも、「朝来る女の人」、「昼来る西のお医者さん」など、異なる表現になりますが、それぞれの表現には人格があることがわかります。

「朝来る女の人」は家事の手伝いをちょっとしながら気にかけてくれる(ちょっとやさしい)女性、「西のお医者さん」は、食事指導したり注意したり必要な物品をもってきたりする(ちょっと厳しいところもあるけれど、頼れる)女性、そんなところでしょうか。

 

機嫌が悪い表現や、人が嫌がる言動をされた時には、「あ~こわい」「そこを少し工夫したら、みんなと楽しい会話で一緒にすごせるようになれると思うよ・・」など、態度で示しますと、わかってもらえることもあります。どうしようもない時は、先ほども書きましたように、離れます!さようならと。

 

介護保険のおかげでたくさんのプロフェッショナルに支えられ、また、地域の皆様のおかげで、こんないいかげんな嫁でも、90歳と88歳の二人暮らしが何とかなりたって(?)います。

在宅医療を進めていく医療の流れの中で、今の貴重な体験を楽しむ所存です。

 

 

岐阜県総合医療センター 女性外来 客員部長

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広瀬内科クリニック ミモザ道場(広瀬内科クリニックセミナースペース)

廣瀬 玲子

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