天野理事長ブログ&スケジュール

2016.04.04

第9回日本性差医学・医療学会学術集会報告

カレスサッポロ 北光記念クリニック所長 佐久間一郎先生の投稿です。

13031日に札幌で、第9回日本性差医学・医療学会学術集会が、私が大会長、時計台記念病院の藤井美穂先生が副会長で開催されました。

 

本学術集会のデーマは藤井先生のご提案で、「性差医学の視点から、21世紀の地球環境をみる」というもので、2日間に渡たり、環境問題、男女共同参画をはじめ、種々のテーマでシンポジウム、市民公開講座等が挙行されました。

 

圧巻だったのは前千葉県知事・元参議院議員の堂本暁子先生のご講演「生物多様性~人と自然の共生」でしたし、また最終日に藤井先生らが座長をされた「男女共同参画―女性医師・女性メディカルスタップの地位向上:現況とその環境整備―」も、新規企画で好評でした。

これらに関しましては、今後第9回日本性差医学・医療学会学術集会のホームページから、収録ビデオにアクセスできるように致しますので、ご覧いただければと存じます。

 

 本稿では、私の会長講演の内容の前半部分(後半は「男女共同参画に必要な諸条件」ですが、収録ビデオで御視聴下さい)を、以下に皆様にお伝えしたいと存じます。

 

——– 以下、会長講演内容から ———

 

昨今、脂質異常症としては、LCLコレステロール(LDL-C)の上昇のみならず、中性脂肪が高値でHDL-Cの低いメタボリックシンドロームの有病者が多いことを経験されていると思われる。医師はこれら病態の成因についての正しい知識を有し、さらに臨床栄養学に基づいた指導をすることが求められる。

 

LDL-Cを上昇させるのは、飽和脂肪酸(SFA)の摂取過多と多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取不足であり、C摂取はあまり関与しないことがわが国でも証明されている。

また、トランス型1価不飽和脂肪酸もLDL-C増加に寄与する。厚生労働省の「日本人の栄養摂取基準2015」では、SFAの摂取基準は7%未満(%エネルギー)と設定されたが、C摂取に関しては血清LDL-Cへ関与するエビデンスがないとの理由で、摂取基準が設定されなかった。また、卵黄の摂取制限はLDL-C増加と関係しないのみならず、重要な蛋白を含む白身が摂れなくなり、栄養学的に望ましくないと初めて記述された。医師は正しい臨床栄養学に基づいた食事指導を行う必要がある。

 

LDL-C値は2週間以上の食事摂取が影響するので、脂質異常症者の食事指導に際しては、前もって1ヵ月間の食習慣アセスメントにより、患者の総エネルギー、SFA、総脂肪、食物繊維等の摂取状況を把握しておくことが望ましい。厚生労働省は、そのツールとして簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を推奨しており、今後医師・管理栄養士も利用すべきと思われる。

 

近年、血中n-3 PUFAEPAおよびDHA)値の低下とn-6 PUFA(アラキドン酸)の上昇が認められるが、この主因は魚類の摂取低下と、揚げ物・フライ・ファーストフード摂取の増加である。一方、各国の厚生省は、食物連鎖の上位にある魚類の鉛・水銀等の重金属、PCB等の化学物質の蓄積を懸念し、その摂取制限指導をしている。

 

わが国の厚生労働省も20036月から、妊娠、妊娠の可能性のある女性に対してサメ、メカジキ、キンメダイ、クジラの一部の摂取制限を指導し、母子手帳にも記載されている。これらの魚は食物連鎖の頂点に居り、メイル水銀が蓄積している。メチル水銀は水溶性であるので、大人や子供が摂っても小便から排泄されるが、妊婦が摂ると胎児は排泄できないため脳に蓄積し、先天性の水俣病様の障害をきたす危険性がある。本学術集会では、東北大学の仲井教授から、「東北の妊婦はマグロを摂取する方が多く、その方々の臍帯血のメイル水銀濃度は高かった。出生児に関しては、3歳の時点の知能検査で、男児では母親のメチル水銀濃度との関連性が認められ始めた」との報告がなされた。

 

今後わが国においては、LDL-CHDL-Cなどのリポ蛋白や中性脂肪のみならず、PUFAの摂取に対しても適切な食生活指導がなされなければ、動脈硬化病変の早期進展・虚血性心疾患の増加が予想され、さらにその摂取源にも問題があり、重要な課題であると考えられる。

 

カレスサッポロ 北光記念クリニック所長

佐久間一郎

http://www.hokko.or.jp/clinic/doctorinspec/ishikensa.html

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