2016.03.10
アルツハイマー病が血液検査で判る
今回は天野理事長のコラムです。
2月27日の午後、よみうり大手町ホールで開催された国立研究開発法人 日本医療研究開発機構主催の「脳とこころの研究 第1回公開シンポジウム: 脳と心の時代―認知症等の克服に向けて」に参加してきました。
シンポジストと報告内容は下記の通りです。
基調講演は、
ノンフィクション作家 山根 一眞さんによる「生命進化40億年をみすえた「医」への提言」でした。
続いて、下記4つの研究報告がされました。
1.基礎科学と臨床医学の連携による発達障害ヘのアプローチ:
名古屋大学大学院医学系研究科 尾崎 紀夫
2.ここまで来たうつ病研究:
広島大学大学院精神神経医学科 山脇 成人
3.アルツハイマー病の血液診断マーカーを活用した早期介入:
大阪大学大学院医学系研究科 武田雅俊
4.軽度認知障害・初期の認知症への日本の取り組み:
国立長寿医療研究センター 鷲見 幸彦
中でも私の関心を引いたのは、アルツハイマー病の血液診断マーカーについてです。
「え?アルツハイマー病が血液で診断できるの?」、これはよく聞いて、皆に情報発信しなくてはと、しっかりメモを取ってきました。
アルツハイマー病に対する治療薬は、現在、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチンの4剤が保険適応になっています。その後も、続々と新しい薬剤が臨床治験に上りましたが、今のところ有効性が確認されていません。
アルツハイマー病では、臨床症状が発現する数十年前から既にアミロイド沈着などの変化がはじまっており、病気が発症してから治療を開始するのでは遅いのではないかとされております。
そのため、早期診断・早期発見のための診断技術の開発がどんどん進められてきました。
脳のMRI、SPECT、ブドウ糖PET、アミロイドPET、タウPET。
そしてここに来て診断に有望なバイオマーカーが見つかったとの報告です。
従来、アルツハイマー病の患者の脳脊髄液では、アミロイドβ42の値が低下していることや、タウ蛋白やリン酸化タウ蛋白の値が上昇していることが知られています。アミロイドβ42は立体構造の変化により不溶性となり、脳内に沈着することにより、脳脊髄液内の値が低下すると考えられます。
武田先生は、アミロイドβと同様の機序で産生されるアミロイドβ類似の蛋白APL1βは、脳内で不溶性とならないので、アミロイドβ産生増加の良いバイオマーカーとなること、神経特異的に発現する蛋白であり、脳脊髄液内だけでなく血液中の値を測定することによりアルツハイマー病の診断マーカーとして利用することが出来ることを明らかにしたと報告されました。
鷲見先生は、島津製作所の田中耕一(ノーベル賞受賞者)博士らが、極めて多種多量の化合物が混在する健常人の血液中からアミロイドβ関連ペプチド22種類を同時に検出することに成功されたこと、これら微量成分の増減と疾患進行との関連を分析することにより、アルツハイマー病の早期診断が可能になることが期待されると報告されました。
近い将来、血液検査でアルツハイマー病(と言うか、認知機能の障害)が早期に診断でき、早期介入で、今まで効かないとされていた薬剤が、実は有効だったと言う夢物語になるかもしれません。