2015.07.31
EBMとNBM-根拠に基づく医療、会話重視の医療
今回は天野理事長のコラムです。
Evidence-based Medicine(EBM)とNarrative-based Medicine(NBM)についてです。
昭和42年に医学部を卒業し、翌年、医師免許証をいただいてから既に37年が経ちました。
医学の進歩は速く、学生時代に習得した技術・知識のほとんどは時代遅れとなっていく中で、毎日が学びの連続です。時代と共に、患者さんへの指導のしかたも変化しています。
現在、治療の際に参考とされるのは、診療ガイドラインといわれるものです。
近年、患者さんを2群に分け、一方には治療としての介入を行い、その治療が行われなかった患者群に比べて、有意に良い治療効果があった・または無かったという「無作為化比較試験」(Randomized Controlled Trial : 以下RCT)による大規模臨床研究の結果が次々と報告されています。
次々と報告される結果を投影した医療を、Evidence-based Medicine(根拠に基づいた医療:EBM)といいます。
EBMは、英国の医学者アーチーボルト・コクランと、米国の医学者デイビッド・サケットの二大医学者の功績をもとに、英・米・カナダ等のアングロ・サクソン圏を中心に、1990年代に国際的に発展してきました。
サケットによると、EBMは「最新最善のエビデンスを、良心的、明示的、そして妥当性のある用い方をして、個々の患者の臨床的決断を下すこと」と定義されており、この定義は国際的にも広く受け入れられています。
ただし、実際のところ、医療において、完全なRCTに基づくエビデンスは限られています。
それは、統計的に十分なRCTによる症例が得られていない、医学のテクノロジーの進歩により、常に最善な治療の可能性が広がっているが、それらについての十分な知識の積み重ねがない、経験的にあまりにも明らかであり、十分なデータが記録されていない領域があるなどの理由によるものです。
医療において、EBMが大きな力を持っていることは確かですが、私たち医師が対峙している患者さんは、一人一人多様な背景を抱えており、そのことを理解せずに、マニュアルどおりに医療を進めることには限界があります。
故河合隼雄先生(心理学者、1928-2007年)は東大医学部医学生にむけて行われた講義の中で、「最先端の医学で治ったという例が増えると、逆に医学的な治療法では片付かないものも増えてくる。高度専門医療だからこそ、患者と医師の意識がずれ、医学的には何も問題がなくても、歪みが出ると、医療過誤じゃないかとか訴訟になったりする。患者の不安の出方、不安を持った患者に対しての説明の仕方に対する研究が必要である。
医学を学ぶ者は、確立されたEBMを出来るようになったうえで、更に医療の現場ではNBMも考えなければ実践にならない」といわれています。
よく患者の話を聴き、患者の心、環境、背景等を理解することにより病気の真の原因をつかむことも多々あります。
また治療の際にも、患者への丁寧な説明、患者と共に病気を治そうとする患者に寄り添う心などが病気の回復を促進することも事実です。
会話を大切にする医療、これをNarrative-based Medicine(NBM)と呼びます。
37年間の医療現場の中で、私が学んだことは「患者さんに学ぶ」姿勢です。