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2015.07.02

骨粗鬆症の治療:診察室で出会う意外な副作用のエピソード

今回は、国立関門医療センター 女性総合診療センター長・循環器内科医長 早野智子先生のご寄稿です。

《はじめに》

「骨粗鬆症診療のバイブルともされる『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』が4年ぶりに改訂され、2015年版の発刊が5月に予定されている」と聞き、6月のコラムで取り上げさせていただこうと考えておりました。ところが「発刊が6月末以降に持ち越しとなる」との情報を知り、まずは先にペンを執った次第です。

 

X線写真での骨粗鬆症化像がある場合や、DXA撮影(骨密度検査)で骨量減少(骨密度値YAM70%以上80%未満)または骨粗鬆症(骨密度値YAM70%未満)と診断された場合、その一般的治療薬として、従来の活性型ビタミンD3製剤、ビタミン K2製剤、カルシトニン製剤、エストロゲン製剤、ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)がまず候補に挙げられます。

 

本日は、このうち女性専用外来で処方されやすい骨粗鬆症のお薬3種について、<診察室で出会う意外な副作用>のエピソードを綴りたいと思います。

 

 

《女性総合診療での骨粗鬆症治療薬》

わたくし共、国立関門医療センター、女性総合診療外来で骨密度検査を受けられるのは、主に40歳から70歳代の女性です。選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、ビスホスホネート製剤、活性型ビタミンD3製剤の3種がまず使用しやすいお薬です。

 

1)選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)の副作用

SERMはワーファリン効果を減弱させます。

冷え性および慢性心房細動の70歳代女性の症例です。

骨粗鬆症にビスホスネート剤を数年間使用中、「進行した歯周病で抜歯治療が早晩必要だ」と歯科の診断がありました。そこで、抜歯の半年前からビスホスネート剤をSERMに変更して以後、以前から使用していたワーファリンの効果が著しく減弱してしまいました。ワーファリンの増量調整を数回繰り返し、現在は小康状態です。抜歯もワーファリン服薬のまま無事に終了しましたが、現在もSERMを内服中です。

 

2)ビスホスネート剤の副作用

ビスホスホネートの静脈注射では、初回に発熱やインフルエンザ様の症状が出ることがあります。

この現象はビスホスホネートが人のγδT細胞の活性化を引き起こすためと考えられており、2回目以後は発生しません。診察室でインフルエンザ症状の方の抗原検査が陰性の場合、念のため、問診で最近の投薬歴をご確認ください。

 

3)ビタミンD製剤の副作用

ビタミンD製剤服用中の方が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)を内服併用する場合、または脱水となる場合、急激に腎不全をきたしやすくなります。

デパート内を歩行中の転倒・骨折で整形外科に入院中の70代後半女性の症例です。

骨接合術後に全身浮腫と胸水貯留で循環器内科外来へ紹介受診されました。心機能は年齢相応に保たれているものの、胸水治療目的に利尿剤を使用すると、急激に腎機能が悪化しました。そこで以前からの血液データと服薬状況を改めて確認すると、骨粗鬆症に対して3年以上にわたるビタミンD製剤の服用歴があり、昨年ごろから徐々に血清クレアチニン(Cr)値が上昇。当時から食欲低下もあったことから、あるいはビタミンD製剤の副作用で高カルシウム血症化とともに食欲低下や腎機能障害をきたしていたのかもしれません。とくに今回の入院後、骨折や長時間臥床による節々の痛みで毎日NSADISを内服し始めてから血清Crは漸増し、尿量は減少。利尿剤を追加した時点から一気に腎不全化を認めたことが判りました。そこでNSAIDS服用を外用のみに変更し、ビタミンD製剤の服用をいったん中止したところ、徐々に腎機能は回復。血清クレアチニンは最高4㎎/dl⇒最少0.78mg/dlまで回復しました。減少していた尿量も増え、胸水・浮腫も消失し、元気に退院されました。

高齢者では、元来腎血流の低下等で腎機能が低下しやすいうえに、ビタミンD製剤服用での高Ca血症化とNSAIDS服用による①プロスタグランジン(PG)合成抑制、②過敏反応、③中毒作用の3つで、急激に腎不全化する場合が少なくありません。さらに脱水が加わるとさらに腎血流は低下し、腎不全が不可逆的となるケースもあるため、注意が必要です。

 

以上、女性の骨粗鬆症治療薬の代表3種について、診察室で出会う意外な副作用エピソードに触れました。

 

ご存知の点も多いかと存じますが、他山の石としていただければ幸いです。

 

国立関門医療センター 女性総合診療センター長・循環器内科医長 早野智子

http://www.hosp.go.jp/~kanmon/gairai/jyosei.html

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